5Gが実現したときコンピュータの歴史は 変わる

ニューコンセプトに基づく新技術の創造に向けて

ICOT・研究所所長 / 渕 一博



本講演録は、第五世代コンピュータ研究開発プロジェクトがスタートして1年 目の1983年6月に行われた第1回「第五世代コンピュータに関するシンポ ジウム」での基調講演である。このシンポジウムは公開の「成果報告会」でも あり、毎年必ず開かれることになる。コンピュータがこの世に登場して半世紀 の岐路に立ち、いま第五世代コンピュータ研究開発でその新しい扉が開かれよ うとしていると、格調高く訴えた。

基本的な設計思想に変革を加える

 昨年度から第五世代コンピュータの研究開発がスタートしているわけですが、 この計画の具体的な内容とか、これまでの研究成果の内容については明日、具 体的にご報告したいと思っております。

 本日はその研究開発の意義を話すということになっているわけですけれども、 意義というのはなかなか難しくて、人によっていろいろな意味づけがあるので はないかと思います。一番わかりやすいのは、このプロジェクトをやるとこん なに役に立つ、場合によってはこんなに儲かるということを言えば、非常に意 義深いと思われる方もいらっしゃるかも知れない。しかし、儲かる話というの は私は全く苦手ですので、そういう観点ではなくてお話ししたいと思います。

 一番大きな意義は、この第五世代コンピュータの計画が実現された時にはコン ピュータの歴史が変わるということではないかと私は思っています。歴史が変 わればなぜいいかということについては、皆さんいろいろ議論されていること と同じでありまして、コンピュータが本当に社会に定着するためには、もう一 段、コンピュータ自体が進化しなくてはいけないと思うわけで、そういう次の 進化段階へ進めるのがこのプロジェクトの趣旨でもあるし、それに成功すれば そのこと自体が一番の意義だと思っているわけです。

 それではなぜそう考えるかということなんですが、それを考える根拠として、 このプロジェクトがどういう性格を持っているか。性格といっても行政的な性 格とかいろいろ観点があるかと思いますが、私が申し上げたいのは、内容的な ところから見てどんな性格があるかということであります。

 いま申し上げたように、コンピュータの歴史が変わるということですが、さら に砕いて言えば、現在のコンピュータが持っている基本的な設計思想に変革を 加えようということが一番のポイントだと思っております。これについてはも う少し後でご説明したいと思うんですが、そういう基本的な設計理念を変える ことによって、コンピュータの新しい段階を到来させたいということでありま す。

 それではこのコンピュータの新しい設計理念というものがすでに確立している かというと、そうでないことは皆さんご存じのとおりであります。

 したがって、基本設計を変えるということは、そのコンセプトを確立して、そ れを実際の基本的な技術にもっていくということだと思います。ですから、基 本技術の確立ということがこのプロジェクトの10年間の目標になるわけです。

 このプロジェクトをやっていますと、各方面からジャーナリストとか研究者な どの訪問者がみえるのですが、中には「第五世代コンピュータを見せてくださ い」と言うので、「まだありません」というと「どこかに隠しているんじゃな いですか」なんて冗談を言われる方もいらっしゃいます。もっと真面目に「わ が社では3年くらい先に新しいコンピュータの導入計画を考えているんだけれ ど、あなた方が主張している第五世代コンピュータというのは非常によさそう だから導入したい」と申し込まれて困ったりもしているんです。


基本技術の確立に10年、その可能性の追 求

 この10年間のプロジェクトというのは長いほうなんですけれども、基本技術 を確立するというところにやはり10年間くらいはかかるだろうと思っていま す。ですから、このプロジェクトが成功して、それをベースにして実際の製品 ができるのにまた数年かかるということで、十数年先の話というので、ある人々 にとっては気の遠くなるような話かもしれません。しかし、その可能性の追求 は非常にやるべき価値があると思っているわけです。

 このことを別の言葉で言うと、この第五世代コンピュータの設計図はどこかの 金庫にあるかというと、今はない。目標はむしろそういう基本的な設計図を作 ることだというふうに考えてもいいのではないかと思います。

 どういう考えに立っているかということについて後でお話しするわけですけれ ども、一番難しいのは考え方を伝えるということで、物ができてしまえば、こ ういうものですということでたちまち分かってもらえるわけですが、こんなこ とをしたいということをいつもご説明しなければいけないということがありま す。

 したがって、このプロジェクトの特徴というふうにも言えると思うんですが、 こんなふうになりますというお手本が世界のどこにもない。あそこにあるあの お手本を10倍速くするとか、何分の1かに安くするということなら非常に分 かりやすいわけですが、そういうお手本はないわけであります。

 しかし、それでは全く空漠としたところに踏み出したかというと、そうではな いということを申し上げたいし、それ自体が一つの特徴だと思います。このプ ロジェクトの計画については、スタート以前に3年という調査期間もありまし たし、実はそれ以前のいろいろな場所における議論も踏み台になっているわけ です。例えば私のいた電総研では5、6年前から、次の時代をどう考えたらい いかという議論が続けられていました。そういういろいろなところの議論を集 約したいということが一つあります。

 それとともに、その過程において世界中で行われているいろいろな先進的な 研究を参考にして、それをベースに、これからの展開はどうあったらいいかと いうふうに議論を進めてきました。私自身はそういうふうに努力しましたし、 皆さんそういう方向できたということで、これまでの研究を踏まえた上で作ら れた計画ですから、別に思いつきの集合ではないということを申し上げたい。

 ただ、いろいろな研究をベースにした時に、そこから何がイメージできるかと いうことについては、ただ集めて統計処理をすれば出てくるというものではな い。したがって、いろいろな方と非常にインテンシブな議論をした上で煮詰め てきたもの、別の言い方をすれば、これまでの動向を踏まえて一つの洞察を引 き出したというものだと申し上げていいと思います。

 ということで、新しい技術を作っていこうということが一番基本にあるわけで す。イメージとかゴールがあってもお手本がないもので新しい技術を作るとい うことについては、わが国は必ずしも経験は豊富ではないわけで、そういうこ とからしますと、このプロジェクトをやるについては、やり方自体、新しいも のを作り出していかなければならないということがあると思います。これまで の伝統的なやり方のままで、そのまま新しい技術が生み出されるとすると、そ んなに結構なことはないんですけれども、多分そうはいかないと思います。

 皆さんよく議論されるように、日本には、どちらかというと新しいものではな くて、もっと安全なものという慣習みたいなものがあるわけで、そういうもの だけに頼っている限りはやはり新しい技術は創造できない。したがって、プロ ジェクトの進め方自体、新しいやり方が求められているということであります。

 その辺をまとめますと、結局、新しい技術を創造するということでこれからの 一つの日本のあり方を示す努力をするということが、またこのプロジェクトの 性格でもあり、意義でもあると思います。


ロジック・マシン(論理の機械)の世界を開 く

 先程ちょうどうまい言葉を元岡達先生がご紹介下さったわけですけれども、プ リコンペティティブというステージにおいて非常に大きな貢献を日本はこれか らするように努力しなければいけない状況になってきていると思います。第五 世代コンピュータはちょうどそういう状況に対応したプロジェクトであると思 うわけであります。

 それで、最初に一番基本のところは何かと言うと、使いやすいコンピュータと か、知能を持ったコンピュータとかいった表現もするわけですが、先程はこれ を設計思想の変更というふうに申し上げたわけです。この辺をある時お話しし ていたら「それはパラダイムの移行ではないか。新しいパラダイムを求めるこ とではないか。」とおっしゃった方がいらっしゃいます。

 パラダイムというのは何かと言うと、日本語に直訳すると範例と訳されるので すけれども、一つの文化なり科学の理論なりが発展する時に、そのベースのと ころに一つの例、それは必ずしも実物ではなくてもいいんですが、一つのお手 本があってそれをベースに展開する。そういうものをパラダイムという言葉で 呼ぶわけです。

 今の場合にその話を引き戻してみますと、これはちょっと私なりの表現にもな るんですが、コンピュータというのは何であるかというと、コンピューティン グ・マシンではあるのですが、一番基本的にはロジック・マシン、論理の機械 であるというふうに思っています。

 そういう観点で基本を求めるとすると、それは論理学に行き着くわけです。そ れでは現在のコンピュータはどういう論理あるいは論理体系に基づいているか と言うと、皆さんご存じのように、一番の出発点のところにはチューリング・ マシンの理論があり、それをベースに発想されてきたと言っても必ずしも間違 いではない。今のマシンがチューリング・マシンそのものではないのですけれ ども、基本を辿ってみればチューリングの理論に辿り着くということで、チュー リング・パラダイムと呼んでいいかと思うわけです。

 それに対して別のパラダイムがあるかということを考えてみますと、あるわけ であります。チューリングの論文が発表されたのは1936年で、なぜか私が 生まれた年なんですけれど、その頃はものの本によると論理学の黄金時代であ ったようです。ご存じの計算可能性等を追究するためにいろいろな論理体系が 工夫されて、その結果、計算可能性という概念が確立された時期でもあります。 その中でチューリングの理論が生まれてきたわけです。

 しかし、論理学の方から言うと、チューリングの理論は非常に特殊な理論で、 論理学の主流は簡単に言ってしまえば述語論理と呼ばれる論理系にあるわけで す。この述語論理の確立にあたってはいろいろな偉い人の名前もたくさん出て きます。19世紀のフレーゲから始まって、1930年代にはゲーデルとかいっ た人も活躍したり、フォン・ノイマンという人自身もこの述語論理の活躍の歴 史に名をとどめているわけですが、そういう体系があります。


いま「述語論理」パラダイムに戻る

 これにはずっとアリストテレス以来の歴史があって、ある意味で論理学として は普通の、より自然な論理と言っていいものです。ですから、ロジック・マシ ンという観点であれば、チューリング・マシンをモデルにしたマシンではなく て、例えば述語論理マシンというものもあってよかったわけですが、実は歴史 はそうは展開しなかった。

 それで、ご存じのようないきさつを辿ってきたわけですが、もしかするとこ の道は巨大な歴史の迂回路であったのではないかという表現をする人もいます。 私も一部そう思うのでありまして、これから申し上げるように、むしろパラダ イムとしては述語論理パラダイムに戻すべき時期が近づいてきたというふうに 考えるわけです。

 述語論理と言うと難しそうにも聞こえるけれども、それほどのものではないの で、普通の記号論理学の教科書でご覧になるようなものの前半のところで十分 な程度です。後ろの方は段々難しい話が書いてありますけれども、それはまた 別な数学的な観点での話でして、述語論理自体は別に難しいものではありませ ん。

 そういう述語論理という論理学におけるモデルがあるんですが、ちょうどそれ に対応するように、この10年くらいの間にプログラミングの分野でも述語論 理を復活させようという動きが出てきたわけです。それをロジック・プログラ ミングと呼ぶのですが、述語論理のような論理をベースにしてプログラム用言 語を作って、それを実際のプログラムに使おうという動きであります。

 この第五世代コンピュータ・プロジェクトの計画を今になって振り返ってみま すと、その基本にあるのはこのロジック・プログラミングの概念であると言っ てもいいと思います。それを中核にしてソフトウェアを組み直し、アプリケー ションを組み直していこうというふうに読み直すことができます。それから、 このロジック・プログラミングという概念をベースにして、それを支えるハー ドウェアとして、新しいアーキテクチャを持ったマシンを作っていこうという ふうに整理することもできます。

 さっき論理学の方からというように非常に高踏的に申し上げたんですけれども、 その結論は、先に論理学があったわけではなくて、先程申し上げたようにいろ いろな研究の分析から浮かび上がってきたものであるというふうにも言えるの です。

 この辺についてはいろいろの機会にお話ししましたので、またかとおっしゃる 方もいらっしゃるかもしれませんが、簡単に復習しますと、いろいろな分野と 密接なかかわりがあります。例えばデータベースという分野を取り上げてみま すと、データベースの世界では関係データベースというのがこれから世の中に 定着しようとしています。

 この関係データベースの基本概念は関係ということですが、この関係というの は述語論理をベースにした概念であるわけです。いまコンピュータのシステム の中にデータベースが占める割合は非常に大きくなってきているんですが、そ こでこれから使われようとしている関係データベース・モデルとプログラミン グの世界が合っているかと言うと、現状ではそうではないのです。

 プログラムの方では関係というものはベースになっていなくて、もっと手続き 的なものがベースになっているんですが、この両者を比べると実は根っこが違 うわけで、別の表現をとれば、データベースの言語の方がより理論的に進んで いて、常用のプログラミング言語の方が古い概念をもとにしている。その2つ を無理に竹と木をつないだような形で使わざるを得ないというのが現状ではな いかと思います。

 竹と木は同じ植物ですから、その程度の類似性はあるわけで、今の場合もその 程度の近さはあるんですが、やはりちょっと違う。

 ですから、このロジック・プログラミングというものはむしろプログラミング の方を関係データベースと同じレベルに戻そうというものと考えていただいて いいと思います。そういう観点からすると、プログラムの方でそれを採用すると、 関係データベースの世界と非常にきれいに結びつく可能性があると言っていいと 思います。

 そのほか、例えばソフトウェア工学の方でいろいろな研究がされて、プログ ラムの新しいスタイルが提案されたり、プログラムの検証とか合成の研究が行 われたりしたわけですが、その辺からもロジック・プログラミングが浮上して くるわけです。

 と言うのは、検証したり合成したり、あるいはこれからの課題だと思いますが、 非常に良いデバッキング・システムを考えようとすると、今のコンピュータの 基本的なモデル、GOTOとかアサインメントがベースになっているものはなぜか 理論的に非常に扱いにくいのです。アサインメントとGOTOというのは非常に基 本的で分かりやすい概念でもあるんですが、むしろ動作を基準にしているので、 ある性質を証明しようとかいうことを考えるとやりにくい。述語論理系のもの はもともとそういう証明というものがベースになっているので逆にいいわけで す。

 それは別に理論的だけではなくて、良いプログラムあるいはすっきりしたプロ グラムを作るのに、これは10年くらい前に流行したんですが、GOTO文はなる べく使わないなどという話があります。これとなぜか一致するところがあるん です。そういうところからも、むしろわれわれが日常使っている普通のプログ ラミング言語ではなくて、述語論理系のようなものがいいのではないかという ことが浮かび上がってきています。


人工知能との深いかかわり

 そのほか人工知能と呼ばれるような分野とも深く関係してきます。最近、非 常に注目されている知識工学的なシステム、エキスパート・システムと呼ばれ るようなものは、知識を表現してそれを一つの規則の形にして、それを処理す ることによって一種のコンサルテーション・システムにしようという発想です けれど、知識を整理してルール化するということのベースは、総じて言えば、 述語論理系のものに戻るというふうに言っていいと思います。

 この辺は細かく言えばいろいろ議論があるわけで、途中ですけれども一言蛇足 を付け加えますと、専門家というのはとにかく非常に細かい差が気になってし まうわけですが、知識の表現についても大同小異の提案がたくさんあるわけで、 私は今のところその大同のほうを申し上げたいと思っているわけです。

 それから、人工知能に関連しては自然言語の扱いということがありますが、自 然言語の処理というもの、例えば文法とかいったものを見てみますと、それは 述語論理と非常に密接な結びつきがあるのです。また言葉の意味を表現する時 にも密接な結びつきがあります。

 というのは逆に考えますと、そういう論理学自体が何から出てきたかと言うと、 自然言語の働きの一部を形成化してみようということから生まれてきたという ものですから、結論としては当たり前かも知れないわけです。

 先程申し上げたロジック・プログラミング自体も、最初は自然言語の研究をし ている人からの提案が出発になっていたという歴史的な事情もあります。

 過去のいきさつにこだわらず考えますと、ソフトウェア的な方面で言うと、チュー リング・パラダイムではなくて述語論理パラダイムがもし採用できるとすると、 今われわれが抱えているいろいろな問題はかなりすっきりと整理されるという ふうに見ることができるわけです。

 ただ、これまでのソフトウェアの蓄積がどうかという議論があるんですが、さ しあたりそれは除いて考えたいと思います。


並列性をソフトウェアの概念で考える

 それからもう一つは、それではそれはソフトウェアの分野だけかということで すが、それはそうではない。コンピュータの方で新しいアーキテクチャの研究 がいろいろ続けられてきたわけですが、その中でこれは面白いというものが最 近いろいろ研究されています。

 それは単にハードウェアの組み合わせとして面白いというだけではなくて、最 近の傾向はそれをソフトウェアの概念と結びつけようというふうになってきて います。よく引き合いに出すデータ・フロー・マシンとか、それのある種の変 形と言ってもいいと思いますけれど、リダクション・マシンの考え方とか、ま た最近、超並列的なマシン・オーガニゼーションも提案されていますが、それ もソフトウェア工学的な概念と結びつけようということになってきているのが 新しい傾向なわけです。

 逆に言いますと、かつて考えられていた並列性とか連想記憶とかいうボトムアッ プ的な概念だけではだめで、むしろ上の方のソフトウェア的なものと結びつか なくてはいけない。かつ、最近の非常に顕著な動きは、むしろそういうソフト ウェア的な概念を持ち込むことによって、並列性とかいったものがうまくオー ガナイズされるのではないかという観点なわけです。

 そういう観点ではファンクショナル・プログラミング、関数的なプログラミン グというのがよく引き合いに出されるわけですけれども、さっきの述語論理的 プログラミング、ロジック・プログラミングというのは、これまたマクロの話 をしますと、関数的プログラミングを含むような一つの拡張概念です。アーキ テクチャ的に考えても、関数的なフォーミュレーションよりも内部により多く 並列性を持っているというようなことで、並列を考える時にはさらにいいベー スではないかというのが、われわれの計画の基本的なところにあるわけです。

 そういう並列的なものを考えてもいいということの裏には、ご存じのLSIの進歩、 超LSIの進歩があるわけです。  そこでまたひとつ歴史の流れを考えてみますと、もともとチューリング・パラ ダイムが採用された基本は何であったかということがあります。1940年代 には、まだまだ素子が非常に高価でした。ですから、なるべく単純な構成のハ ードウェア、できるだけ少ない真空管という時代がかつてはあったわけです。 そういうところから生まれたすばらしいアイデアが現在のフォン・ノイマン方 式と呼ばれるものであると位置づけたいと思うわけです。

 歴史が一巡して、単純なハードウェアの上ですべてソフトウェアでやるという ことについていろいろ問題が発生してきた。一部にソフトウェア危機とあだ名 されるような現象が出てきた。そういう過程を経て、かつてハードウェアが高 かった時代の基本思想をあくまで守るということから、ちょうど歴史が一巡し て、次の時期に戻っていくというふうにストーリーを組むこともできるのでは ないかと思っています。

 そういうわけで、第五世代コンピュータの基本は述語論理への回帰といったこ とであると私は位置づけております。これは別に全く新しいものではなくて、 むしろより古いものに戻るんだということで、革新という言葉が嫌いな人に対 しては、これは復古の思想であると申し上げ、逆に革新が好きな人に対しては、 新しいものを開拓するんだと言っているんですが、両方とも別にうそを言って いるわけではなくて、ちょうど歴史が一巡していく途中の過程にあるのではな いでしょうか。

 これはまだ現在そこまできていないわけで、うまくいけばこれから10年後、 1990年代にちょうど歴史が一巡するようなことになるであろうということ です。ちょうど現在のコンピュータが生まれて半世紀余りという時期にあるわ けですから、そちらから考えてもいいのかもしれません。


コンピュータが生まれて半世紀、新しい扉 を開く

 そんなことで私なりの説明をもう一度させていただいたわけですが、もちろん この背景には非常にたくさんの議論があって、いろいろな専門家の方々を集め た場で数年間、議論した結果を煮詰めて、それを私なりに言い直してみるとこ んなことになるということでございます。

 昨年6月に研究がスタートしまして、そこにいろいろな組織から人を派遣して いただいて研究を始めたわけですが、その内容は明日の報告に待つとしまして も、私からご報告したいことは、一見、寄り合い所帯のような構成であるにも かかわらず、所内の雰囲気の融合はきわめて早かった。ひと月もたたない内に 一つの研究所としてのムードができ、それをベースにこの1年ちょっと、期待 以上の研究を各研究員がしてくれている状況にあります。

 これは集まってきた研究者の人達や、それを応援してくださる周りの方々の熱 意にもよるわけですが、それと同時に、このプロジェクトの目標自体が、ちょっ と空漠としたところがあるにしても、非常に理想に燃えたものだということで、 若い研究者達が研究に熱中してくれるような内容を持っているのではないかと いうふうにも考えているわけです。

 そのほか諸外国での反応については元岡先生が先程ご紹介くださったわけです が、これもわれわれが議論を始めた頃あるいは一昨年の秋に国際シンポジウムを やった時と比べても、非常な様変りであります。

 最初は日本の計画は実現性のないことをやろうとしているんじゃないかという 批評もあったんですが、計算機の新しい時代への展開という趣旨に対しては、 その後だんだん賛同者が外国でも増えてきている。その一つの現れが各国での 新しいプロジェクトのスタートではないかと思います。その裏には外国での研 究者達の応援もあったと思っています。

 時間が残り少なくなりましたので、ここでまとめますと、第五世代コンピュー タのプロジェクトは、ほかのプロジェクトを引き合いに出しては申しわけない んですが、どちらかと言うとほかにたくさんあるプロジェクトとはかなり違っ た性格を持っている。そういう今までにない試みをしようとしているわけです けれども、その辺のことを踏まえて、これから一層いろいろな努力が必要だと 思っております。われわれの組織が一つの中心的な役割をしなければいけない わけですが、それだけではなくて、この研究の活動の輪を日本全体に、あるい は世界全体に広げていかなければいけない。そういう芽はあるわけですけれど も、その芽を育てていく。そういうことで本当にコンピュータにとっての新し い時代がくると思うわけです。どこかの局部的な努力というよりも、新しい時 代というのはみんなのものですから、みんながそういうふうになっていくよう にしていかなくてはならないと思っております。

 そのためにはわれわれも努力をするわけですけれども、いろいろ関係の方々の ご協力とか応援とかいったことも是非ともお願いしたいと思います。

 ちょっと具体性の乏しい話に終始しましたけれども、これで終わらせていただ きたいと思います。

 ご清聴どうもありがとうございました。