まえがき
(内田 俊一、淵 一博)

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第五世代コンピュータプロジェクトが、1982年に開始されてから、10年が経過した。
この問、私達は論理プログラミング言語を中核として、高度並列処理技術と知識処理技術
を結び付けた新しいコンピュータ技術の創出をめざし、新しいコンピュータのハードウェア
やソフトウェア技術、および、その基盤となる理論の研究開発を進めてきた。また、プロ
ジェクトの最終目標として、これらのソフトウェアやハードウェアを一体化したプロトタイ
プシステムを試作し、新たに開発された技術の客観的な評価を行なうことを目指した。

その研究開発は、多くの技術的に困難な問題を含んでいた。しかし、幸いにも、本プロ
ジェクトと共に、論理プログラミングや知識処理の研究分野は、大きな成長を遂げた結果、
多くの研究者を生み出していた。私達は、これらの世界中の多くの研究者の協力を得て、そ
れらの問題を解決することができ、その結果、プロトタイプシステムを完成することがで
きた。そして、国際会議FGCS'92で、このような本プロジェクトの成果を発表するととも
に、ソフトウェアやハードウェアのデモンストレーションを行なった。また、このプロジェ
クトで開発されたソフトウェアを無償で公開し、世界のコンピュータ科学技術の発展に貢献
する道を開くことができた。

私達は、この機会を捉え、第五世代コンピュータ技術関連の研究分野の指導的研究者を
海外より集めてワークショップを開催し、本プロジェクトの創出したソフトウェアやハード
ウェア技術、および、本プロジェクトの達成した学術的、政策的な貢献について、評価して
もらうことを計画し、この評価ワークショップを開催した。このワークショップでは、海外
より招いた研究者のうち、特にこれまで本プロジェクトにおいて実施した、いろいろな国際
共同研究に協力してもらった研究者を選び、本プロジェクトの評価についての意見を発表し
てもらい、議論した。

このプロシーデングスは、このワークショップの趣旨説明を含むプログラムとこのワー
クショップでの発表内容を後から論文にしてもらったもの、さらに、本プロジェクトに関す
る意見を手紙でおくってくれたものなどを含んでいる。その内容は、本プロジェクトが海外
の政府主導のプロジェクトに与えた影響や、コンピュータ科学技術の分野への貢献に関する
もの、論理プログラミングや並列処理などの技術内容の評価に関するもの、知識処理の応用
の将来に関するもの、ソフトウェア無償公開に関するもの、今後ICOTは何をなすべきか
という将来展開に関するものなど、多岐に渡るものであった。ここにまとめられたさまざま
な意見は、第五世代コンピュータに関連する技術的な面に留まらず、日本の国家プロジェク
トが世界の先端技術開発の中で、何をなすべきかという政策的な面にも及んでおり、今後の
日本が研究開発を行なう場合考慮すべき条件を示すものとなっている。

その意見は、極めて建設的なもので、私達、このワークショップの主催者は、これらの
意見を寄せられた発表者と議論に加わった参加者に、深く感謝するものである。このプロ
シーディングスが、第五世代コンピュータプロジェクトの技術的、学術的、そして、政策的
な評価に関心を持つ、今後、先端研究開発を担うであろう、研究者、技術管理者、政策担当
者などの参考になれば、幸いである。

                          '92年8月1日                           内田 俊一、淵 一博


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