(21) 膜タンパク質立体構造予測のためのタンパク質判別・二次構造決定システムの開発と公開
研究代表者:美宅 成樹 教授
東京農工大学 工学部 生命工学系
[目次]
- 研究の背景
- 研究の目的
- 研究の内容
- ソフトウェア成果
膜タンパク質の立体構造解析は機能の重要性から世界中で精力的に行われて
いるが、膜タンパク質の場合、水溶性タンパク質とは異なり、生体膜という極
めて疎水的な環境に存在するためタンパク質そのものを安定に抽出することが
難しくX線やNMRによる構造解析が困難な状況にある。一方、立体構造解析とは
対照的にアミノ酸配列の情報は、ヒトゲノム計画と相まって年々急増している。
よって膜タンパク質の立体構造をアミノ酸配列より予測することが可能になれ
ば、機能の予測や新薬の開発、人工タンパク質の設計などに新たな知見を与え
るものと考えられる。 膜タンパク質の立体構造を経験的に予測を行うにはい
くつかの理由で困難がある。第一に構造に関する経験的なテンプレートが少な
い。第二に水溶性タンパク質で作られたパラメータがほとんど役に立たない。
第三に構造が似ていると考えられていた7本ヘリックスのバクテリオロドプシ
ン(bR)とロドプシン(Rhodopsin)の構造もかなり大きな違いがあり、テン
プレートの適応範囲が小さいことがわかった。 これに対して膜タンパク質は
物理化学的な予測には有利な性質を備えている。すなわち、まず膜内へのアミ
ノ酸残基の侵入には疎水性相互作用が、次に膜内でのヘリックス構造形成には
極性相互作用がかなり決定的な役割を果たすことが実験的にわかっている。ま
た構造的にも比較的単純でほぼ同じ長さのヘリックスが平行に束になっている。
これらの利点は膜タンパク質の立体構造形成に関する理論的研究の不利な条件
を十分補うものと考えられる。 本研究のようなテーマは基本方針として3つ
のやり方が考えられる。アミノ酸配列を純粋に文字配列と考えて、情報化学的
アルゴリズムによって予測を行うもの、アミノ酸配列にある程度の物理化学的
な情報を割り当てて経験的に予測を行うもの、最後に物理化学的過程を学んで
予測アルゴリズムを確立するというものである。経験的なテンプレートが少な
く物理化学的には単純な膜タンパク質の立体構造予測には、3番目の方針で予
測することが適切であると考えられる。
本研究では計算機上で物
理的相互作用の計算を基にして、膜タンパク質の立体構造予測法を確立するこ
とを目的としている。但し、アミノ酸配列から最終的な立体構造をまで予測す
ることは開発時間がかかるので、ここでは、前半部分である疎水性相互作用に
よるタンパク質の判別と二次構造決定をできるだけ高精度に行うソフトウェア
システム「SOSUI」をインターネット(WWW)上で開発する。予測システムをイ
ンターネット(WWW)対応にすることにより、従来のCD-ROMやディスクなどの
媒体によるインストールは不要になり、インターネットにつながった全ての生
物学者が利用可能になる。また、これと同じものを、ICOTフリーソフトと
して提供し、IFSの利用が促進されると期待される。
本研究は二つの部分に分けることができる。膜タンパク質判別及び二次構造予
測のための物理化学的予測アルゴリズムを確立することと、それをWWW上で実
現し、全ての生物科学者に利用可能にすることである。
【1】物理化学的相互作用計算を基とした膜タンパク質判別及び二次
構造予測法の確立
膜タンパク質は、生体膜と分子レベルで相互作用しており、その相互作用
は膜タンパク質立体構造の形成及び安定性に大きく寄与している。このことは
他の水溶性タンパク質と大きく異なるところである。よって膜タンパク質の立
体構造を予測する場合には、まずアミノ酸配列の生体膜に対する形態(トポロ
ジー)をおさえことが重要である。
そこで本研究では、生体膜が非常に疎水的な環境であることを考え、疎水性相
互作用を基とした、(1)アミノ酸配列が生体膜と相互作用するか否かを判別
(膜タンパク質判別)するモジュールと(2)実際にアミノ酸配列のどの部分
が膜内に埋め込まれているかを詳細に予測するモジュールを構築する計画であ
る。以下に各モジュールについて説明する。
膜タンパク質の判別モジュール:
まず、アミノ酸に疎水性指標を割り当て、連続した数値列にする。このプ
ロットを用いて最初に全体の平均疎水性値を求める。続いて疎水性プロットの
周期性解析(最大エントロピー法)を行う。これにより疎水性領域の変化をと
らえることができる。特に20〜30残基の周期性(長周期性)は、生体膜の
厚さに相当しておりアミノ酸配列が生体膜を貫通しうる情報としてパラメータ
化できる。よって膜タンパク質判別では水溶性タンパク質と膜タンパク質のそ
れぞれの平均疎水性値と長周期性から散布図を作成し膜タンパク質構造が判別
できる境界を決定する。この判別ではすでに99%の精度が確認されており、
現在、ソフトウェア化が進められている。
膜タンパク質二次構造予測モジュール:
実験的に既に膜タンパク質であると確認されているものや上記の膜タンパ
ク質判別計算で判別されたものを対象に、より詳細な膜貫通領域を予測するモ
ジュールである。方法としては判別モジュールと同様に疎水性プロットからの
局所的な疎水性の変化値とヘリックス周期(短周期)を調べることで予測が可
能になりつつある。現在の予測精度は約80%で、今後、予測精度を向上した
り自動化を行うためには膜に吸着する過程、膜貫通ヘリックスの端が決まる機
構をアルゴリズムに加える必要がある。
【2】HTMLによるインターネット(WWW)対応のSOSUIシステムの開発
膜タンパク質判別及び二次構造予測のそれぞれをC言語を使ってプログラ
ム開発を行う。個別に作成されたプログラムはインターネット(WWW)対応の
HTML(Hyper Text Makeup Language)で作成されたホームページによってリン
クされる。これによりシステムが世界的に解放される環境が設定される。ユー
ザーは問い合わせのための未知のアミノ酸配列をキー入力またはカット&ペー
ストするだけで膜タンパク質であるか否かの判別及び詳細な膜貫通領域の情報
を得ることができる。
(1)作成されるソフトウェア名称
- SOSUI:膜タンパク質を中心としたタンパク質判別及び二次構造予測システム
(2)ソフトウェアの機能/役割/特徴
- 機 能
- アミノ酸配列からの膜タンパク質判別と二次構造領域(膜貫通領域)の
予測。
- 役 割
- SOSUIシステムは、大量の遺伝子情報解析に伴うアミノ酸配列の増加に
対応して、機能的、構造的に未知のアミノ酸配列を生体膜との相互作用の観点
から分類、解析を行うシステムである。
- 特 徴
- 膜タンパク質判別能力に優れている。(99%の判別精度)
- 二次構造予測結果にヘリックス周期性情報などの付加情報が含まれ
ている。→ 立体構造への情報を含んでいる。
- インターネット対応である。
- 特別なグラフィックツール(MOTIF、OPEN LOOK)は不要である。
- 入力データは、アミノ酸配列のみである。
- WWWをグラフィックユーザーインターフェースに用いているため、操作
性に優れている
www-admin@icot.or.jp