平成7年度 委託研究ソフトウェアの 提案

(6) 制約 MGTP による知識表現と自然言語処理への応用

研究代表者:雨宮 真人 教授
      九州大学 大学院 総合理工学研究科




[目次]

  1. 研究の背景
  2. 研究の目的
  3. 研究の内容
  4. ソフトウェア成果


[研究の背景]

第五世代コンピュータプロジェクト及びその後継プロジェクトにおいて、モデル生 成法に基づく並列推論システムMGTPが開発され、有限代数の未解決問題等を対象に、 証明過程の最適化が進められてきた。その結果、否定情報を制約として伝搬させる 機構を導入した制約MGTPが開発され、良好な性能が得られている。

一方、自然言語処理の分野では、PereiraとWarrenが自然言語の構文解析をホーン 節論理の演繹推論としてとらえ、定式化して以来、Prologをはじめとする論理型言 語によって自然言語解析の記述が行われている。現在では、構文的な制約と意味的 な制約を併用したさまざまな構文解析手法が提案されているが、これらの手法につ いては、依然、記述性や効率面で解決すべき問題が多い。


[研究の目的]

本研究では、制約MGTPの適用領域を広げるために知識を制約として表現する方法に ついて検討し、抽象度の高い知識表現言語処理系としての完成を目指す。この一環 として、自然言語処理を制約MGTPの応用分野として、構文解析をはじめとする制約 に基づく自然言語解析を行うアプリケーションを記述する。これによって得た知見 をもとに、さらに必要な制約記述を洗い出し、制約MGTPの制約機構を強化する。

なお、改良した制約MGTP、および、応用プログラムパッケージはIFSへ提供する。

[研究の内容]

IFSとして登録されているKLIC及び、KLIC版MGTPをベースに以下の項目について研 究および開発を進める。

(1) 動的補題生成法の導入:
タブロー法の改良技術として知られている、アトミック・カット、補題生成など のアイデアは、制約MGTP上では負リテラルの伝搬としてとらえることができ、制 約MGTP上での制約機構の強化につながる。ただし、MGTPのような並列証明系にお いては、このような静的手法を単純に適用するだけでは制約の伝搬が充分に行え ない。そこで、本研究では並列に処理される証明間の整合性を保ちつつ補題を動 的に生成する手法について提案し、実装をおこなう。

(2) 構文解析への応用:
上記の動的補題化により、LR構文解析やBUPを、MGTPで記述した際に発生する冗 長な解析が抑えられることが期待できる。そこで、動的補題化の効果を構文解析 により評価し、同じ構文木を繰り返し生成しない効率のよい構文解析器の記述が できることを示す。

(3) 自然言語解析のための各種制約の記述と実装:
制約に基づく自然言語解析の手法をMGTPによるノンホーン論理プログラミングの 観点から整理、検討し、構文解析と意味表現を統一的に扱うための枠組をMGTP上 で実現することを目的とする。

具体的には、(2)で対象とした構文解析過程に、意味素性や単語間の共起関係の 情報をデータベースから検索し制約として与えるための機構をMGTPに加える。ま た、より制約を重視したアプローチとして、HPSGやJPSGなどの制約に基づく文法 をとりあげ、制約MGTP上での実装手法を開発する。

文章理解については、アブダクションを用いた文章の解釈手法に着目し、MGTP上 での実現をめざす。そのため、本手法を制約による自然言語解析手法としてとら え、MGTP上で既に開発されているアブダクションの技術と統合させる。

(4) 制約伝搬機構の実装:
(3)のような制約に基づく手法では、解析中の情報が証明モデル間にまたがって 伝搬する。従来のMGTPでは値域制限性の条件により、このような情報の流れが発 生することは無かった。このため、本研究では、モデル間通信のための、新たな 実装法を開発する必要がある。これは、今まで問題記述の足枷となっていた値域 制限性の条件を緩和することにもつながり、無限領域の問題では証明効率の向上 も期待できる。そこで、並列性を損なわずに通信量を抑えられるような実装法に ついても検討する。

(5) MGTP処理系の入出力整備:
現在のMGTPでは、公理系のわずかな変更に対しても(外延データであっても)、 MGTPプログラムからKLICへの翻訳系をその都度通し、さらにKLICによるコンパイ ルを行わなければならない。また、証明結果の出力についてもユーザがその形式 を指定できるようにする必要がある。MGTPを汎用の推論エンジンとしてより完成 度の高いものにするため、入出力に関する記述をMGTPの言語仕様に加え、KLICに より実装を行う。

(6) その他:
MGTPと定量的な比較評価をするため、KLIC上でMGTP以外の証 明手法に基づく定理証明系を実装する。具体的には、タブロー法、Davis and Putnum法などを考えている。

[ソフトウェア成果]

(1)作成されるソフトウェア名称
(a) 動的補題生成法を導入した制約MGTP
(b) KLIC上のタブロー証明系
(c) 制約MGTP上の自然言語処理パッケージ
(2)そのソフトウェアの機能/役割/特徴
(a) 「動的補題生成法を導入した制約MGTP」は、基本的には一階の定理証 明系として機能する。制約MGTPに与える入力は、含意形式の節集合であり、これ を宣言的なプログラミング言語とみなして問題記述をする。制約MGTP処理系は、 節集合をKLIC節の集合に変換し、新たに導入した制約機構により、無駄なく実行 を進める。

(b) 「KLIC上のタブロー証明系」は、節形式の入力を受け取りタブロー法 により定理証明を行うシステムであり、値域限定性の条件を課さない一般の節集 合を扱う。

(c) 「制約MGTP上の自然言語処理パッケージ」は、自然言語処理に関する 知識記述を与え、解析を行うために拡張した制約MGTP、およびそれに付随した自 然言語処理ツール群である。その中には、文法規則からMGTPプログラムへの翻訳 系が含まれる。本翻訳系は、入力として文法規則を与え、オプションとしてLALR、 BUP等の解析手法を指定することにより各々の手法に対応するMGTPプログラムを 生成する。生成されたMGTPプログラムにより並列構文解析をおこなうことができ る。



www-admin@icot.or.jp