市之助も太郎も死亡した。 判例によれば、浦田が市之助に行った行為【放置する_1】は過失であると主張された。 したがって、乙が太郎に行った行為【置き去り2】は過失であると認められる。 ルールベース推論 ルールベースエンジンは法的結論を法律ルールによる前向き推論によって導き 出す。法的ルールは数が多いので、高速なルールベースエンジンが必要である。 更に法的ルールには例外規則も含まれているので、ルールベースエンジンには、 非単調推論を扱える機構が付加されていなければならない。HELIC-IIのルール ベースエンジンは並列定理証明器MGTP(Model Generation Theorem Prover) をべ一スにしている。MGTPは非ホーン節の集合を与えると、全ての入力節を 満たすモデルを並列推論によって生成する。MGTPを法律ルールのルールベー スエンジンとして使い、さらにバイプライン効果によって高い処理性能を得るた めに、我々はMGTPにいくつかの機能拡張を施した。 1.「証明の失敗による否定」の実現: 法律ルールには2種類の否定が含まれている。1つは論理的否定(「〜でな い」)であり、もう1つは証明の失敗による否定(「〜が証明できない」) である。元のMGTPは論理的否定だけを対象としていたので、我々は証明 の失敗による否定も扱えるように拡張を行った。 2.異なる前提条件に基づく推論の実現: ルールベースエンジンは与えられた事実(新たな事件)と事例べースエンジ ンの推論結果の両方を初期モデルとして使う。弁護側と検察側の主張はしば しば対立するので、事例べ一スエンジンは論理的には矛盾するデータを生成 することがある。そのため、論理的に矛盾を含まないようにモデルを分割し て、ルールベース推論を行うという、データ管理の機能を開発した。 事例べース推論 法的な事例(過去の判例)は弁護側と検察側の双方からの論証と、裁判官の判 断、そして最終的な判決とからなる。我々は過去の判例を、その状況といくつか の事例ルールの組として記述している。状況は、事件の出来事に関する情報をイ ヴェントとオブジェクトの集合、そしてそれらの間の時間関係として記述する。 双方からの論証は事例ルールとして記述される。事例べ一スエンジンは過去の類 似の判例を参照して、法的な概念を生成する。まず第1段階では類似の判例を事 例べ一スから検索する。第2段階では、選ばれた類似判例の事例ルール(双方の 論理)を新たな事件に適用することによって、新たな事件に対する論理が構築さ れる。各事例ルールは類似性に基づく照合によって適用される。 並列推論の評価 図3はルールベースエンジンと、事例べ一スエンジンの第2段階での速度向上 を示している。我々はマルチPSIの64PEを使って50倍以上の速度向上を 得ている。 図3 ルールベースエンジンと事例べ一スエンジンの速度向上 デモ概要 並列法的推論実験システムHELIC-IIが、甲女の事件を解く様子をデモンスト レーションする。まず甲女の事件の問題点を説明する。次にHELIC-IIによって 結論が導かれる様子を示す。更にその結論が導かれた推論過程を推論木により解 説する。最後に自然言語形式の出力を使ってより詳細な説明を与える。 モチーフ抽出実験システム 概要 分子生物学の分野の重要なテーマであるタンパク質の配列モチーフ抽出を行 なう実験システムをPIM上に構築した。大規模な探索空間を持つタンパク質モ チーフ抽出問題において、記述長最小基準と遺伝的アルゴリズムを用いた確率的 探索手法が高い並列性を有し、PIM上で効率的に実行できることを示す。 特徴 モチーフ抽出実験システムは、タンパク質データベースPIRに含まれるタ ンパク質を対象に、シトクロムCなどの特定のタンパク質を識別するためのモチー フを自動的に抽出する実験システムである。本システムでは、データに混在する エラーや分類エラーの問題を解決するために、モチーフを例外事象を含む確率的 規則として扱う。モチーフ抽出実験システムの特徴は次の通りである。 1)モチーフ評価に記述長最小(MDL)基準を採用し、抽出されるルールの 現データベースヘの過剰適合を防止。 2)ルールの学習に確率的探索アルゴリズムである遺伝的アルゴリズム(GA) を利用し、計算時間の組み合わせ的爆発を回避。 3)試行並列、分割並列、データ並列の3種類の並列性を持つ並列GAにより、 PIMの高並列性をフルに活用。 1モチーフ抽出問題 モチーフとは、同種のタンパク質に共通して見られるアミノ酸配列バターンで ある。モチーフはタンパク質の機能、構造を特徴づけ・進化の過程でも保存され てきたと考えられている。代表的なモチーフの例をあげる。 ヘム結合部位 ロイシンジッパー (ヘリックス同士の結合) C:システイン H:ヒスチジン L:ロイシン X:任意のアミノ酸 X6:XXXXXX 2記述長最小基準(MDL)によるモチーフ評価 モチーフの評価基準として、MDL基準を採用した。MDL基準は、次式で与 えられる記述長が小さいモチーフをより良いモチーフと考える基準である。 MDL基準は、下図のような、分類誤りはあるが単純なモチーフと分類誤りは ないが複雑なモチーフとの比較基準を与える。 3遺伝的アルゴリズムによるモチーフ探索 モチーフの探索手法として、生物の進化過程をヒントに考案された確率的探索 アルゴリズムである遺伝的アルゴリズム(GA)を採用した。ビット列で表現さ れたモチーフに対して、交叉、突然変異、選択の3種類の遺伝的操作を繰り返し 適用し、MDL基準の意味で良いモチーフを抽出する。 モチーフ表現 contain(S,"CXXCH")一一一一→1000 contain(S,"IPG")一一一一一→OO01 contain(S,"CXXCH")一一一一→1001 &contain(S,"IPG") 遺伝的操作 4遺伝的アルゴリズムによるモチーフ抽出の並列性 遺伝的アルゴリズムによるモチーフ抽出には、試行並列、分割並列、データ並 列の3種の並列性がある。