第五世代コンピュータプロジェクトの研究開発成果 成果の概要 第五世代コンピュータプロジェクトの当初目標は、『知識情報処理のための新 しいコンピュータ技術の体系』を確立することであった。この目標にそって、新 しいプログラミング言語や、並列ハードウエアやソフトウェア技術が開発された。 また、これら技術の基盤となる理論や方法論などが生み出された。 これらの成果は、並列論理型パラダイムを縦糸として、一貫性のある形で体系 づけられ、さらに、第五世代コンピュータプロトタイプシステムという、実際に 稼働するものとして、まとめあげられている。また、このプロトタイプシステム は、VLSI-CADシステム、法的推論システム、遺伝子情報処理システムな ど、実用規模の応用問題に適用され、その有効性と効率性が、実践的に評価され ている。 この結果、このプロジェクトは、従来の数値計算向きの逐次処理技術の拡張で は到達できない『大規模並列知識情報処理システム技術の基盤』を確立し、次の ような新しいコンピュータ技術を提供していることが実証された。 大規模並列記号処理(並列推論)の技術 1.並列論理型言語KL1を用いることで、知識処理や記号処理の『非定型的な 応用問題』を、マシンやシステムの細かな制約にわずらわされずに自由に、 かつ、能率良くプログラミングすることが可能。このため、従来は困難で あった、1,OOO台規模の大規模並列マシンを駆使した応用ソフトウェア 開発が、短期問で可能となった。また、それ以上の大規模並列マシンの応 用ソフトウェアの効率的な作成方法についても見通しを得た。 2.1,000台規模の並列推論マシンは、KL1を効率良く実行でき、現在、 世界中で最も強力な記号処理能力を提供している。これによって、従来のマ シンでは、手の届かなかった知識処理の応用問題や、ソフトウェア生成の手 法が実用レベルに到達した。 3.世界初の本格的な並列OS,P1MOSは、『動的な計算負荷の分散や要求 に応じたデータの再配置』を効率良く行なうことができ、百万台規模の並列 処理や分散処理を管理することが可能。また、KL1言語処理系と同様、P IMOSの技術は、MIMD型の並列マシンに対して、広く適用が可能。 -5- 高水準の知識情報処理の技術 L論理型のパラダイムを基に、論理式や種々の領域の制約として、知識を表現 する技法を開発し、知識表現言語Quixoteや制約論理プログラミング 言語GDCCとして提供している。。これによって、人問社会に蓄積されてい る知識を記述し、コンピュータが理解する形式に変換する自由度が、大幅に 向上した。 2.高水準の知識表現を許しながら、大容量データを効率的に管理する知識べ一 ス管理技術や高並列データベース管理技術を新たに開発した。その中核部分 は、演繹オブジェクト指向データベースシステム(Quixote+Ka ppa-P)として、並列推論システム上に試験実装し、有効性を確認して いる。 3.論理的に表現された知識を効率的に利用して、知的応用システムを作るため には、高水準の高次推論機構(エンジン)が必要である。並列自動定理証明 システムMGTPは、このようなエンジンの中核となるものである。 このような機構を用いて、事例べ一ス推論や仮説推論などの高次推論機構の 基礎技術とソフトウェアツールを提供している。ソフトウェアツールは、並 列推論システムの強力な記号処理能力に裏打ちされており、従来技術では手 の届かなかった高水準の知識処理が、実現可能なものとなっている。 実践的な機能実証と新しい応用分野の開拓 1・KL1とPIMOSの提供する快適な並列プログラミング環境によって、知 識処理や記号処理の多くの応用問題の中から、高い並列性を抽出し利用する ことが可能となった。これらの多くは、非定型的な並列性であり、従来技術 では、抽出し利用できなかったものである。このため、多くの応用問題にお いて、数十倍から数百倍の速度向上が達成でき、第五世代技術の汎用性と有 効性を実証できた。 また、定理証明システム、遺伝子の配列解析システム、CADシステムなど の記号処理の問題では、速度向上と共に、並列ソフトウェアの生産性、保守 性が極めて高いことが確認された。 2.知識表現技法や高次推論機構の利用により、従来の技術では、実用レベルに 到達し得なかった知的水準の高い、エキスパートシステムやプログラムの生 成支援システム、自然言語処理システムなどが、構築可能となった。 -6-