法的推論

法律の知識は法令文と過去の判例からなる。法令文は法律ルールの集合である
から、法令文に基づく推論はルールベース推論として実現している。しかし、法
律ルールはしばしば定義の曖昧な法律用語(法的概念)を含んでいる。そうした
法的概念の多くは、実際の事実に適用されて初めてその厳密な意味が決められる
ものである。このような法律ルールを実際の事実に適用するには、それらのルー
ルを解釈することと、法的概念と具体的な事実との対応付けをすることが必要に
なる。その際、しばしば過去の判例が参照され、その中の論理展開が再利用され
る。つまり法的推論はルールベース推論と事例べ一ス推論が結合したモデルで表
すことができる。しかし、このモデルでは類似の事例を検索し、それに基づいて
結論を導き出すのに多くの時間が必要であり、更に複数の推論エンジンの推論
を制御するための複雑な機構が必要となる。我々は法的推論システムHELIC-II
を並列推論マシン上に開発し、これらの問題を並列推論によって解決した。

HELIC-IIの概要

HELIC-IIは与えられた事件に関する法的結論を、法令文と過去の判例を参照
することによって導き出し、推論木の形でそれらを出力するシステムである。HELIC-
IIはルールベース推論のエンジンと事例べース推論のエンジンからなっている。
ルールベースエンジンは法律ルールを参照し、法的結論を論理的に導くものであ
る。以下は過失致死の法律ルールの例である。全ての法律ルールはこのような推
論規則として表現される。


      過失致死(“コメント",【条文=210】,
        【自然人(A,【 】),自然人(Bl,【 】),{{A\=B}},
          行為(_行為,【主体=A】),
          過失(_過失,【主体=A,行為=_行為】),
          因果(_因果,【原因=_行為,結果=_死2】),
          死(_死2,【主体=B】)】
          →
         【【過失致死
                 (_,[主体=A,行為=_行為】)】】).


このルールは”過失”という法的概念を含んでいる。この”過失"が成り立つ
かどうかは、下記の甲女の事件のような個々の事例でケースバイケースで判断さ
れる問題である。

甲女の事件:
ある冬、甲女は生活に疲れて実子の太郎を道端に捨てた。太郎は生後4
ヵ月であった。乙は道端で泣いている太郎を見つけ、車で警察に届ける


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