3.1 ロボットの耳は2つで十分か
國藤 進 委員
グループウェア研究が一段落した1990年代になって、同期・対面環境では当たり前の存在感、実在感や臨場感がグループウェア環境では欠落していることに気付き、存在感、実在感や臨場感等のアウェアネス(気付き)を補完する研究[1]
が勃興してきた。その草分けはDourishらのジェネラル・アウェアネス「誰が誰と話し、誰が話し手や聞き手の周辺にいるか、彼らはどの様な行為をしているか」[2]
といった日常の同期・対面作業では当たり前の情報がグループウェア環境では欠けているという認識から出発した。まず存在感や実在感のアウェアネスを伝達するグループウェア環境の構築研究が起こり、ついで対面環境以上の臨場感のアウェアネスを伝達するグループウェア環境を構築したいという研究開発が盛んに行われている。
実際、分散協調作業の進捗を支援するにはアイコンタクトのできる環境を必要とするという視点から、石井は既にゲイズアウェアネスの提供できる環境[3]
を構築していた。仮想空間でのオフィスでの出勤感や連帯感を高めるための位置アウェアネスの研究[4] 、会話開始のためのきっかけを作るための同じ作業をしていることを相手に気付かせる存在のアウェアネス研究[5]
、インフォーマルなコミュニケーションを促進させるインタレストアウェアネスの研究[6]
等が積極的に行われた。このような研究の延長線上にナレッジアウェアネス[7] 、情報取得アウェアネス[8] 、Webアウェアネス[9] 、コミュニティアウェアネス[10]等の様々なアウェアネス研究が行われた。最近のグループウェア、CSCW関連の国際会議では、何らかの意味でアウェアネス関連の研究と言えるものが激増している。
JAISTでは臨場感、氛囲気、気配、熱気、凄み等のアウェアネスを伝達できる遠隔コミュニケーション技術の研究開発を行っており、これにより分散環境でも対面環境と同様な突っ込んだ遠隔会議や遠隔教育が可能となる。日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業で、宮原は深い感激をも伝達できる電子的AVシステム[11]を試作し、深い感性をも共感できるアウェアネス基盤が構築できることを実証[12]した。これらの研究は癒しを促し、切れる子供達を救う新しいヒーリングテクノロジとして開花する可能性がある。具体的応用研究として、アウェアネス技術とセンサ技術を融合し、一人所帯あるいは独居老人向きのアウェアホーム[13]を建築しようという動きもあり、興味深い。
知識科学の立場では、アウェアネスは形式知のみならず暗黙知をも支援できるグループウェア環境を構築する研究開発と見做すことができる。サブリミナル・マインド[14]に関する認知心理学の実験によると、人間の記憶には再生、再認、再学習の三つの階層がある。アウェアネス研究はこのうち「言われる、見せられる、あるいは示される」と分かる再認レベルの記憶を、暗黙知でなく形式知に引き上げる技術ととらえることができる。なお脳科学の領域でも、意識の階層構造[15]として自己意識、アウェアネス、覚醒という三階層を考えており、自己意識の下位にアウェアネスと覚醒という広大な無意識世界があることを主張している。その意味でアウェアネス研究の奥行きは深い。
CSCW(Computer Supported Cooperative Work) はアメリカのACM
が隔年 (偶数年) に開催するこの分野で最高の国際会議である。類似の国際会議としてヨーロッパで開催されるECSCWがあり、これは奇数年に開催されている。
シアトルで開催されたCSCW98に参加した際、研究発表およびデモセッションを中心に「アウェアネス(Awareness) 」に関する研究発表が相次ぎ、富士通北陸システムズの中川と参加し、「これからはアウェアネス関連の研究開発を大学、企業関係者が真面目にやらないといけない」と確信した。その後、CSCW2000ではATRの角がWeb
and Awareness というワークショップを設け、我々の指摘を実証してくれた。ここに、中川と國藤は既に申請済みの国有特許を受け、当時共同研究した成果を帰国後、直ぐに商品化
(商品名WebCoordinate)した。
今年度のCSCW2002[16,17] はアメリカのニューオーリンズのHyatt Regency Hotel で開催され、参加者 500名弱であった。招待講演2件、論文発表39件、パネル4件、ポスター紹介1件、併設ワークショップ12件、博士論文コロッキアム13件、チュートリアル12件、デモンストレーション16件、インタラクティブポスター36件、ビデオ8件、特別エベント1件の多岐に渡る国際会議であった。このうちアウェアネスというキーワードを含む研究発表が論文発表で3件、博士論文コロッキアム2件、デモンストレーション2件、インタラクティブポスター3件あった。すなわちキーワード・レベルでは10件であるが、内容的には20件以上のアウェアネス関連の研究発表があった。ここではそのうち我々が注目すべき、将来的にインパクトを持つと思われるアウェアネス研究を12ほど紹介する。
全体的にみた大きな研究開発動向としては、基礎研究、応用研究のフェーズを越え、徐々にではあるが具体的商品に繋がる開発研究のフェーズに突入したと言える。また個人活動や小集団活動のアウェアネス研究からコミュニティ活動や組織活動のアウェアネス研究に力点が移りつつある。そのために必要なデータや情報をAV機器やセンサを用いて徹底的に蓄積・保存し、そこからどのような知識や知見が得られるのかといった社会科学的分析と、計算機実験を行い、その結果を新たなCSCWツールの設計イシューへ反映するといった研究が増えてきつつある。
3.1.2.1 アウェアネス技術に関する研究発表
[Papers ペーパー発表]
Ambiguities, Awareness and Economy: A Study of Emergency Service Work
M. Pettersson, D. Randall and B. Helgeson, Blekinge Institute of Technplogy,
Sweden
pp.286-295
本研究はスウェーデンにおける緊急サービスセンターで実施された学習経験から帰結される知見を纏めたものである。この学習はCSCWコミュニチーにとって馴染みの仕事の様相分析に焦点を当てて行なわれた。実際にそこで行なわれている仕事の実際の記録を取り分析すること、技術的に適切な質問が行なわれたかを理解すること、最も重要なのはいかに技術がその使用に際してうまく機能したかである。ここでは二つの事例に焦点をあてた。最初の例では、質問された論点は緊急事が同定され、取り扱われる方法に関する物だった。それはオペレータに取り扱われるべき典型的問題で、携帯電話社会では日常起こる問題である。ここでの対処法は注意深く聴くことであり、Computer
Aided Dispach System の機能を活用しようとすれば「しつこく聴取すること」で対処できる。第二の焦点はこれらのセンターではコンピュータ化された地図が存在するにも係わらず、地図の解釈の適切性に焦点を当てている。これら二つの事例はあいまいな状況で注意深い緊急サービスを行なうには、アウェアネスという概念がシステムの設計イシューに含まれねば行けないことを示している。
Designing and Deploying an Information Awareness Interface
Jonathan Cadiz, Gina Venolia, Gavin Jancke, and Anoop Gupta, Microsoft, USA
pp. 314-323
本稿は、情報アウェアネスを提供するインタフェースであるSideshow(図1参照)について述べている。
SideshowはDHTMLとCで記述されたWindowsアプリケーションである。天気情報やニュースヘッドラインなどのインターネット上にある情報源をユーザが選択すると、アイコン化された情報一覧をデスクトップに常駐するSideshowから随時参照することができる。予定表やインスタントメッセンジャーの機能も持ち、これらの情報やその変化に対するアウェアネスを促すことができる。
図1 Sideshowの画面イメージ
著者は、多くの既存アウェアネス研究が、研究室レベルでの使用に留まっている理由の一つは、ユーザがシステム利用に支払う対価としての手間が、その使用による利益に比べて大きいという問題によるとしている。本システムは、情報源の選択や利用方法に関するカスタマイズの簡易性と自由度を追求することで、様々なユーザが自分の求める利便性に沿って利用可能なシステムとし、これを克服した。
Stimulating Social Engagement in a Community Network
David R. Millen and John F. Patterson, IBM Research, USA.
pp. 306-313
本稿はオンラインコミュニティでの社会的交流(Social Interaction)を促進または抑制する要因に関する調査研究である。1999年に開始されたオンラインコミュニティ(図2参照)を対象にフィールドスタディを行い、社会的交流の促進要因として、コミュニティシステムのデザイン、参加メンバの役割選択、対話内容といった3つの側面からの検討がなされた。
図2 オンラインコミュニティページの画面イメージ
デザインの側面からは、システムを参加者全員が集える"ロビー"と複数の"チャンネル"からなるツリー構造にすると、参加者はロビーで全体の動向に関する社会的アウェアネスを得ることができるとされた。メンバの役割選択の側面からは、コミュニティ内での社会的交流に時間を割くことができるサポートメンバを募集することが、特にコミュニティの初期立ち上げ時期には有効であるとされた。また、対話内容の側面からは、サポートメンバによる、人々の興味関心が高いと思われる話題への誘導が、社会的交流の促進に有効であるとされた。
Work Rhythms: Analyzing Visualizations of Awareness Histories of Distributed
Groups
James "Bo" Begole, John Tang, Randall Smith, and Nicole Yankelovich,
Sun Microsystems, Inc., USA
本稿では、分散ワークグループを対象とした作業履歴分析によるアウェアネス支援の提案を行っている。作業履歴とは、E-mailの送受信や、キーボードおよびマウス操作の有無を1分単位の時系列で記録したもの(図3参照)である。人々の生活や作業には「リズム」があるという考え方から、記録された作業リズムの規則性を分析的に利用することで、他者の作業状況に関わるアウェアネスを支援することを目的とする。
図3 可視化された作業アクティビティの画面イメージ
実験では、時差が3時間ある分散ワークグループを対象に、作業履歴の収集が行われた。長期的な収集結果から、日々の出勤退勤や昼食時間といった、作業場の特徴的リズムパターンが抽出された。曜日による作業アクティビティの差異といったパターンの抽出も行われている。本研究では、このようなパターンから、例えば、時差があるユーザ間で連絡を取り合うときに、相手型の作業パターンから最初の連絡に適切な時間を知るといったアウェアネスキュー(手掛かり情報)を得ることが可能である、といった提案がなされている。
[Demonstrations デモ発表]
DiamondTouch SDK: Support for Multi-User, Multi-Touch Applications
Alan Esenther, Cliff Forlines, Kathy Ryall, and Sam Shipman, Mitsubishi Electric
Research Labs, USA
pp. 127-130
本発表では、映像の投影が可能なタッチパネル型入力デバイスDiamondTouch (図4参照)の紹介と、同開発キット及びアプリケーション例の提案が行われた。
タッチパネルは、小型PDAや大型プラズマディスプレイなどで採用されることが多い、画面上の任意の一点を押圧により指示することができる入力デバイスである。一般的なタッチパネルでは、複数点への同時押圧を検出することができない。
本装置の特徴は、特殊なRFIDペンなどを使わずに、複数点押圧の認識と押圧者の識別が可能なことである。これにより、テーブル型の共通画面上で、複数ユーザが同時に表示対象の操作や指示を行うことが可能になった。
DiamondTouchの表面は、それぞれがユニークな信号を発信する送信アンテナのアレイになっている。ユーザは座布団型などの受信アンテナ端子に触れておく。どのユーザがどこに触っているかは、受信された信号を解析することで判別可能である。
開発キットによるアプリケーション例としては、一面に表示された衛星地図上の指示したポイントに、観光情報や道路情報などそれぞれのユーザが選択した情報を表示するものなどが示された。
図4 DiamondTouch使用イメージ
Encountering Awareness Information with GroupSense Displays and Tools
Andreas Dieberger, Stephen Farrell, Beverly Harrison, Eser Kandogan, Thomas
P. Moran, and Barton A. Smith, IBM Almaden Research Center, USA and Bogdan
Dorohonceanu, Rutgers University, USA
pp.95-98
本発表が提案するGroupSenseシステムは中規模ワークグループにおける出会いアウェアネスを支援するものである。協調的活動を行うグループ内メンバがその所在情報を共有することによる作業上の利便性向上を目的としている。
システムは、ユーザによるIN(出勤)/OUT(帰宅)の申告からアウェアネス情報を生成する。本システムは、インスタントメッセンジャーなどの既存ソフトと異なり、情報のプッシュ型配信を行わない。環境に設置された専用ディスプレイ(図5参照)やウェブページにアウェアネス情報を表示し、訪問者がそこを参照することで気づきを促すという手法を採る。
150cm x 90cmの大型プラズマディスプレイでは、メンバの在勤状況を魚の泳ぐ様子で表現するといった手法がとられた。またウェブページでは、ユーザが記した連絡先や今日の予定といった情報も共有することで、より利便性を増すという方策がとられている。
本システムの評価は行われていないが、システム停止時に得たクレームなどから、ユーザにとって無くてはならないツールとして成功したであろうとされている。
図5 設置型GroupSenseディスプレイの例
[Interactive Posters インタラクティブポスタ発表]
SitComm: Situation-Aware Interpersonal Communication
Kristine Nagel, Georgia Institute of Technology, USA, and Gregory Abowd, GVU
- Georgia Institute of Technology, USA
pp. 191-192
本発表では、著者らが進めるAware Homeプロジェクトの一部として、状況アウェアネスを備えたインターコム(内線電話機)の提案を行っている。
既存の内線電話の特徴は、同期分散型環境を対象に音声による軽快なインタラクションを実現しているところにある。装置の軽快さと利便性を追求する手法として、著者らはこれに状況アウェアネス機能の付加を行った。
具体的には、誰がどこに居るかといった状況の一覧表示が可能なInteractive InOut Boardを、インターコムの対話相手先選択端末として備えた。相手先を選択すればすぐに繋げられるという軽快さを持ちつつ、相手がどこにいるかというアウェアネス情報を得ることができる。本装置は、Aware
Homeプロジェクトの中で使用され、実際の長期評価などは今後行われる計画である。
Communicating through Handheld Wireless Tablets: Livenotes and Shared Group
Awareness
Matthew Kam, Orna Tarshish, Dan Glaser, Alastair Iles, and John Canny, University
of California, Berkeley, USA
pp. 143-145
本発表においてKamらは、アウェアネス機能を備えた共有白板Livenotes(図6参照)を提案している。これは小集団対象の同期分散型グループウェアであり、無線で繋がれた携帯型タブレット上に実装されている。共有白板としての機能では、複数の書き込み可能なページを持ち、各ユーザは自由にページを選んで書き込みを行うことで、個人のメモや複数人での共同作業に使うことが出来る。
共同作業環境では、他ユーザの存在や作業状況に対する気付きであるワークスペースアウェアネスが重要と言われている。Livenotesでは、利用ページをページ数を表すナビゲーションバーから選択する方式を取っており、このバー上に他ユーザの書き込み状況をページ毎にアイコン化して表示することで、作業状況に対するアウェアネスを支援している。
図6 共有白板Livenotesの画面イメージ
3.1.2.2 アウェアネス関連技術に関する研究発表
[Papers ペーパー発表]
Improving Interpretation of Remote Gestures with Telepointer Traces
Carl Gutwin and Reagan Penner, University of Saskatchewan, Canada
pp.49-57
ジェスチャーによるコミュニケーションは対面および分散環境の両者において重要な役割を果たしている。しかしながら、グループウェアにおけるジェスチャーはネットワークのジッターによって引き起こされる動きの崩壊の故に、しばしば見て、解釈するのが難しい。遠隔ジェスチャーに見やすさを改良する一つの方法はトレースを用いることである。即ち、遠隔ポインターの動きの最後の数モーメントの可視化である。本研究は人々がジェスチャーを解釈するのに役立つトレースの効果に関する評価実験を行なった。我々はジッターの遅れがだんだん大きくなるとき、テレポンターのトレースが人々の意思決定に関する正確さと確信の度合いを動的に改良するのを発見した。このことは遠隔共同作業において、テレポンター・トレースやインタラクション履歴の可視化がコミュニケーションを豊かにすることを示唆している。
Developing CSCW tools for Creativity -Empirical Findings and Implications
for Design
C. Magerkurth, T. Prante, and N.A. Streitz, Fraunhofer IPSI, Germany
pp.106-115
CSCW研究者では世界で最も発想支援に近い研究を行なっているのがドイツのGMD グループである。彼らが分散グループでのアイデア発見支援ツールに関する経験的学習を行い、CSCWツールの設計に活かすための知見をまとめ報告した。学生の集団を異なる仕事の様式で、空間配置と白板ツールを用いる創造的問題解決に従事させた。学習結果を分析することで、多くの要求が演繹された。これら要求によって知らされるツールの組は典型的な利用のシナリオにそって提供されるべきである。すなわち、それはマインドマッピングシステムBeachMap、アイデアを継続的ボトムアップ構造化する革新的なインタラクション技法MagNets
、および旅行中も使える非同期アイデア生成のためのPDA ツールPalmBeach という三つのソフトウェアコンポネンツからなる。
Creating Assemblies: Aboard the Ghost Ship
J. Hindmarsh, C. Heath, D. vom Lehn, King's College London, U.K.and J. Cleverly,
Staffordshire University, U.K.
pp.156-165
シカゴのSOFA展覧会に展示され、大好評を博したインタラティブアーツ幽霊船(図7参照)のデモ展示結果を報告した論文である。伝統的なオブジェクツとビデオ技術の組合せに遭遇した人々が、それらをどのように理解するかについて、作品とデモ見学者とのインタラクションの膨大な視聴覚記録を取った。
人々の行動とインタラクションの分析結果は美術館やギャラリーにおいてインフォーマルなインタラクションや社会性を生じさせる技術的組合せ・研究開発を示唆する設計方針を得るのに利用できる。デモ展示会場における見学者の視線の記録から、インタラクションと共参画に関する幾多の設計方針を得たことが興味深い。
図7 Ghost Shipデモの様子
Sharing and Building Digital Group Histories
C. Shen, N. B. Lesh, F. Vernier, C. Forlines, and J. Frost, Mitsubishi Electric
Research Laboratories, USA
pp.324-333
組織、家族や研究機関では文化や歴史を共有・発展させることが多い。本研究では、こういった過ぎ去った集積的出来事についての会話や物語を促進するシステムについて述べる。ユーザはテーブルトップ・インタフェース上の写真、ビデオ、テキスト文書といった分散したマテリアルのデジタルアーカイブを活用する。ソフトイウェアとインタフェースの双方が自然な会話とリフレクションを助長する。この研究は多数の共存するユーザがデジタルコレクションを開発するための進行中のプロジェクトの一応用である。プロジェクト名はPDH(Personal
Digital Histirian) で、専用のテーブルとインタフェース(図8参照)が開発されている。各種の応用を意図したソフトウェアシリーズが事例研究として提案されていたが、それらは新しいテーブルウェアとでもいうべき研究分野を示唆しており、極めて興味深かった。
図8 PDHテーブル使用の様子
本章では、最近のグループウェアやCSCW研究における主要研究課題の一つであるアウェアネス技術について、CSCW2002の調査結果を中心に、その研究開発動向を述べた。昨年の報告書[18]に記したように、我々は既にWeb
探索アウェアネス[19,20] 、およびカンバセーションアウェアネス[21]を実現する環境を構築した。位置情報アウェアネス環境の構築については、デモ展示会場におけるコミュニティの知的活動を支援するコンテクスト・アウェアネス環境の構築事例[22,23]
を試作した。更に位置情報アウェアネスサーバを利用した情報環境を、JAIST 知識科学研究科棟内に知識創造支援システム[24]として構築し、各種応用システムを研究開発中[25,26,27]である。また宮原のように視覚・聴覚の見えざる因子を探すというアプローチ以外に、触覚や嗅覚のような他の感覚情報を伝達することでアウェアネスを深めるアプローチがある。これに関して岡田らの臭覚アウェアネスの研究[28]や宗森らの効果音・振動アウェアネス研究[29]が興味深い。
アウェアネス研究は分散環境において、同期・対面環境以上の臨場感を提供するには如何にするかという問題提起から出発した。アイコンタクトの提供という素朴な研究から出発し、存在のアウェアネス、動作のアウェアネス、嗅覚・触覚のアウェアネス、形式知のみならず暗黙知のアウェアネス、メタ情報やメタ知識のアウェアネスの研究と進展しており、その研究開発の最前線は止まることを知らず、前進している。新世代グループウェアの設計者が対面環境では失われた臨場感を相手に提供したい時、自分の使用するマルチメディア、ヒュマンメディアの特性を十二分に理解し、新世代のマルチメディア・グループウェアのためのアウェアネス環境を構築しなければならない。
[1] | 國藤 進、加藤直孝、門脇千恵、敷田幹文: ナレッジマネジメント時代のグループウェア、日科技連出版社、2001年7月. |
[2] | P. Dourish and S. Bly: Supporting Awareness in a distributed Work Group, in Poc. of CHI'92, pp.541-547, ACM, 1992. |
[3] | 石井 裕: グループウェアのデザイン、共立出版、1994. |
[4] | 本田新九郎、富岡展也、木村尚亮、岡田謙一、松下 温: 在宅勤務者の疎外感の解消を実現した位置アウェアネス・アウェアネススペースに基づく仮想オフィス環境、情報処理学会論文誌、Vol.38, No.7, pp.1454-1464, 1997. |
[5] | 松下 温、岡田謙一: コラボレーションとコミュニケーション、共立出版、1995. |
[6] | 松浦宣彦、日高哲雄、岡田謙一、松下 温: VENUS: Interest Awareness を利用したインフォーマルコミュニケーション環境、情報処理学会論文誌、Vol.36, No.6, pp.1332-1342, 1995. |
[7] | 山上俊彦、関 良明:Knowledge-awareness 指向のノウハウ伝播支援環境: CATFISH,情報処理学会、93-DPS-59-8, pp.57-64, 1993. |
[8] | 門脇千恵、爰川知宏、山上俊彦、杉田恵三、國藤 進:情報取得アウェアネスによる組織情報の共有促進、人工知能学会誌、Vol.14, No.1, pp.111-121,1999 年1月号. |
[9] | 中川健一、國藤 進: アウェアネス支援に基づくリアルタイムなWWW コラボレーション環境の構築、情報処理学会論文誌、Vol.39, No.10, pp.2820-2827,1998年10月. |
[10] | T. Ishida(ed.): Community Computing and Support Systems, Springer, Lecture Notes in Computer Science 1519, 1998. |
[11] | 宮原 誠:日本学術振興会・未来開拓学術研究推進事業宮原プロジェクト研究成果報告書、理工領域-6 マルチメディア高度情報通信システム「未来映像音響創作と双方向臨場感通信を目的とした高品位Audio-Visual System の研究」、2002年3月. |
[12] | 林 秀彦、國藤 進、宮原 誠: 高品位映像の評価−脳波を指標とする客観評価法−、映像情報メディア学会誌、Vol.56、No.6、pp.954-962, 2002年6月号. |
[13] | 椎尾一郎: 基礎講座 ユビキタスコンピューティング 第1回 ユビキタスコンピューティング@ホーム、ヒューマンインタフェース学会誌、Vol.4 No.3, pp.123-130, 2002年3月号. |
[14] | 下條信輔: サブリミナル・マインド、中公新書、1996. |
[15] |
苧阪直行編: 脳と意識、朝倉書店、1997. |
[16] | ACM2002 Conference Proceedings of CSCW2002, New Orleans, Nov. 16-20, 2002. |
[17] | ACM2002 Conference Supplement of CSCW2002, New Orleans, Nov. 16-20, 2002. |
[18] | 日本情報処理開発協会先端情報技術研究所: 人間主体の知的情報技術に関する調査研究V、平成14年3月. |
[19] | R. Sakamoto and S. Kunifuji: Collaborative World Wide Web Browsing System through Supplement of Awarenesses, Proceedings of KES'2000 Vol.1, University of Brighton, pp. 233-236, 31 August, 2000. |
[20] | 坂本竜基、國藤 進: 創造的なWeb の利用を支援する協調的Web ブラウジングシステム、日本創造学会論文誌第6号、2002年12月27日. |
[21] | S. Ito and S. Kunifuji: Supporting Conversational Awareness in Text-based Conference System, Proceedings of KES'2000 Vol.1, University of Brighton, pp. 221-224, 31 August, 2000 . |
[22] | 伊藤禎宣、角 康之、間瀬健二、國藤 進: SmartCourier: アノテーションを介した適応的情報共有環境、人工知能論文誌、第17巻3号、pp.301-312、2002年5月. |
[23] | 坂本竜基、角 康之、中尾恵子、間瀬健二、國藤 進: コミックダイアリ -漫画表現を利用した経験や興味の級友支援、情報処理学会論文誌、第43巻第12号、pp.3582-3595、2002年12月. |
[24] | 山下邦弘、國藤 進、西本一志、伊藤孝行:知識創造キャンパスの実現、サイエンティフィック・システム研究会編、SS研究会ニュースレター選集2002、pp.61-72、2002年5月. |
[25] | 若江智秀、小林 薫、藤波 努、國藤 進:公開型コミュニティ指向メッセンジャーによる実世界コミュニティの活性化、情報処理学会第64回全国大会、特別トラック「グループウェアとネットワークサービス」優秀発表賞、東京電機大学、平成14年3月12-14 日. |
[26] | 山下邦弘、國藤 進、西本一志、伊藤孝行、宮田一乗:知識創造ビル内位置情報アウェアネスサーバの設置とその応用 -追跡型情報掲示板システムの構築- 、情報処理学会第46回グループウェアとネットワークサービス研究会、機械振興会館会議室、2003年1月15日. |
[27] | 森田篤志、山下邦弘、國藤 進:インタレスト・コンシェルジェ:“待ち状況”に共通興味を案愛する情報サービス提供サービスシステム、情報処理学会インタラクション2003ポスター発表、2003年2月27-28 日. |
[28] | 永野 豊、本田新九郎、大澤隆治、太田賢治、重野 寛、岡田謙一、松下 温: 仮想空間内の風と香りの表現手法、情報処理学会第58回全国大会、1999年3月. |
[29] | 宗森 純、宮内絵美、牟田智宏、吉野 孝、湯ノ口万友: 電子鬼ごっこ支援グループウェアの試作と適用、情報処理学会グループウェア研究会、2001-GW-39, pp.25-30,2001 年 3月。 |