オーストラリア連邦政府のジョン・ハワード首相は、1997年末に「成長のための投資」[6]と題する計画を発表した。その中には、将来ビジョンとして次の点が掲げられている。
| ヲ | 輸出志向で、技術的に発達した競争力のある製造部門 |
| ヲ | オーストラリアを域内で東京に次ぐ主要金融センタとする質の高いサービス産業 |
| ヲ | それ自身が雇用拡大、輸出、新規ビジネス機会などの重要な源泉であり、また経済全般にわたり他の産業に変化を及ぼす情報産業 |
| ヲ | 大企業を補完し、多くの新規企業やアイディアが生まれる、活気のある小規模ビジネス部門 |
| ヲ | あらゆるニーズを満足させて、域内を始め各地へのオーストラリア商品とサービスの輸出 |
計画では5年間に12億6,000万ドルを投入し、投資、輸出貿易、新しい高成長産業の革新などを促進していくことを表明しており、推進領域として次の点が示されている。
ヲ 企業革新の奨励
ヲ 投資の促進
ヲ 貿易収支の改善
ヲ 金融センタとしてのオーストラリア
ヲ 情報化時代への対応
以下にその概要を示す。
企業や経済の競争力向上のための主要な推進力は革新性である。オーストラリア政府の革新計画は、場合によっては市場における研究開発に関して援助が必要なことを認識している。政府は、このため今後4年間に、ビジネス革新のため10億ドルの拠出を予定している。
研究開発費に対する125%の課税控除に加えて、研究開発着手援助計画(R&D Start)を拡大して、今後4年間に、5億5,600万ドルを追加拠出する。この期間の研究開発着手援助計画の予算総額は7億3,900万ドルになる。
研究開発援助計画の拡大は、次の三つの要素で構成される。
| ヲ | 事業経費の50%まで助成金を交付する。 |
| ヲ | 研究開発着手追加援助計画(R&D Start-Plus)は、通常の研究開発着手援助計画(R&D Start)の適用が受けられない企業(総売上高が5,000万ドル以上)に対し、事業経費の20%までの助成金を交付する。 |
| ヲ | 研究開発着手特別援助計画(R&D-Start Premium)では、200%の研究開発費課税控除に相当する、追加援助が与えられる。この計画による助成金は、特許権使用料契約やその他の契約を通して商業化に成功した場合に返済される。 |
また政府は、4,300万ドルの基金を追加して、今後4年間に、総額1億5,300万ドルを拠出し、新投資基金計画(Innovation Investment
Fund Programme)を拡大する。ベンチャーキャピタルへの資本投下も促進する。この一連の基金追加によって、オーストラリア国内のベンチャーキャピタル市場開発の成功に必要な資金が確保される。これは小規模なハイテク企業を直接の対象にしたもので、計画の幅を広げ業界から強い支持を得ている。
また、7,200万ドルを追加し、今後4年間に、総額1億800万ドルを支出して技術の普及を促進するための施策を講じる。
投資は、経済成長と生活水準の改善を持続するために不可欠である。しかし、アジア・太平洋域内における最近の金融激動は、「過度の投資誘引戦略は、本来の経済的利点を保証しない」という現実を再確認させる。
したがって、政府は、必要以上の投資インセンティブは用意しないが、経済や雇用に大きな利益が期待されるものに対して戦略的プロジェクトや刺激策を講じる。こうしたインセンティブの必要性を査定する基準を明確にし、調整するため、戦略投資調整官を任命し、関係各省との円滑な連絡を保ったり、インセンティブの供与を正当化したり、政策の変更を必要とするプロジェクトについて首相を通じて内閣に勧告する。
また、外国の投資促進を図るため、「インベスト・オーストラリア」という機関を設置し、今後4年間に、毎年1,100万ドルを拠出する。
政府は、二国間、域内諸国間、多国間などでの様々な活動を含めて、貿易政策の多面的な取り組みに努めているが、主要な貿易相手国と、さらに強力な二国間の貿易関係を構築しつつある。
APEC内にあって、オーストラリアは、2010年から2020年までの間の貿易と投資の自由化を目指している。今年我々は、食品、化学製品、エネルギー、その他オーストラリアが提案した主要部門を含む15の分野で、自由化の前倒しを提唱した。政府は、引き続き市場アクセスや規格整合に要する過度の経費を削減して、域内における製造拠点としてのオーストラリアの魅力を向上するため、二つの補完的な制度を導入する。
| ヲ | 輸出業者の、輸入後再び輸出する商品や、輸出品製造のために用いられる商品に賦課される関税と売上税の免除を規定する「保税製造制度」(Manufacture in Bond)を導入する。TRADEXと名付けられた一つの単純な制度にする。 |
| ヲ | APEC域内での関税調和と共に、規格・整合性に対する障壁除去、産業協力の促進などを目指した活動に対する「APEC市場統合/産業協力計画」に、今後4年間に、1,800万ドルを拠出し、また、「輸出アクセス計画」(Export Access)の延長と、新しい「輸出開始計画」(TradeStart)とを通じて、域内向けや中小企業の輸出機会を推進する。これに関して、今後4年間に、1,300万ドル以上を支出する。 |
オーストラリアを世界屈指の金融センタとし、成長している金融サービスセクターから利益を獲得する。金融センタとしてのオーストラリアの将来性を高めるさらなる選択肢提供のため、金融部門諮問委員会(Financial Sector Advisory Council)に特別班を設立する。
台頭する世界経済は、情報と知識が鍵となっており、このような時代にどのように立ち向かうかが、経済成長や雇用機会等に大きな影響を及ぼす。政府は、既に情報経済大臣の管轄下に国家情報経済局(National Office of the Information Economy)を設け、情報化政策を調整してきた。引き続き、政府は次の点を推進していく。
| ヲ | 柔軟な規制・枠組みに基づき産業と消費者の間の信頼関係を醸成する |
| ヲ | オーストラリア連邦が先端技術のユーザとなる |
| ヲ | 情報産業の基盤を改善する |
| ヲ | 情報化時代へのアクセス、特に地方や遠隔地、障害者などのためのアクセス支援と社会における情報関連技術習得を支援・促進する |
4年間に、2,800万ドルを投じて建設する優秀なソフトウェア工学や実験施設などを通じて、新規投資を誘致し、比較優位性を促進するため、情報産業アクションプラン(Information
Industries Action Agenda)を導入する。
その結果、2001年までにインターネット上ですべての行政サービスが施せるように、コンピュータによる総合的なサービスを開始する。また政府は、情報産業機器製造に必要となる素材・部品の輸入関税を免除する。インターネットを通じて電子的に発注され、配達される商品に対する免税措置も存続させる。インターネットへの情報税を課税しない。
以上の各領域における課題推進に加えて、産業改革促進のため、特定産業において成長への障害と取り組み、市場拡張のチャンスを見いだすため、「アジアのためのスーパーマーケット計画」(Supermarket to Asia)等の戦略的アクションプランを実施する。
1999年1月には、「情報経済のための戦略フレームワーク」をリリースした。そこでは、優先課題として、
1)全ての国民が情報経済から得る便益を最大化する
2)情報経済に参加するために必要な教育とスキルを国民に提供する
3)情報経済に対応できる世界一級のインフラを整備する
4)国内産業において電子商取引の利用を増大させる
5)電子商取引を促進するための法規制の枠組みを整備する
6)情報経済の中でのオーストラリア文化の健全な発展を促進する
7)オーストラリアの情報産業を育成する
8)医療セクターの潜在力を有効活用する
9)電子商取引の国際的規範作りに貢献する
10)電子行政サービスに関する世界一流のモデルを実現する
を掲げている。
そして、1999年7月には第1回の進捗レポート、2000年3月には第2回目の進捗レポートが発表された。
2001年2月、ジョン・ハワード首相はオーストラリアの発展を支える政府の新アクションプラン(Backing Australia’s Ability)
を発表した。情報通信(ICT; Information and Communication Technologies)は、情報経済、ニュービジネス創出、既存産業の変革と雇用拡大の原動力であり、オーストラリアの経済・社会にとって極めて重要な役割を果たしていることを周知した。
計画では、総予算29億ドルを各拠点に1億2,950万ドルづつ分配して、世界クラスの情報通信拠点を設立する。各拠点(ICTセンタ)は莫大なICT研究能力を持ち、国際的な研究と商業活動に対応する。また、公的部門と民間部門のR&Dをサポートするための重要な対策も新アクションプランに含まれ、研究結果としての新技術(ICTの技術革新と高度のICT適用)を商業化する能力とICTスキルの利用を高める。
ICTセンタの設立は斬新な技術開発能力を強め、国有のICT部門を刺激する。新技術の他の産業への応用に関して、オーストラリアが世界の中でリードユーザとしての地位を保つ。
新アクションプランでは、アイデアの形成から商業化するまでのICTプロセスにおける全ライフサイクルの連携を重視した対策が盛り込まれている。以下にその概要を示す。
a) アイデアの創出
これらの大量な資金イニシアティブと同時に、Backing Australia’s Abilityは多くの変革を推進していく。以下はその変革の内容である。
特に、直近の何ヶ月間において、以下の分野を優先的に発展させる。
ICTは経済成長の原動力で、全産業領域に貢献する。実際に、この部門がオーストラリアの経済全体の中で、最も成長が速い部門である。ICTは雇用拡大、製品・サービスと輸出、他の産業への影響は著しい。オーストラリアはICTの先端ユーザと同時にいくつかの重要な分野を開発した。
ICTセンタの成立は技術の突破を図り、国有のICT産業を刺激し、雇用と富を作り出す。ICTの革新的な技術への理解は、新技術の他産業への適応を促進し、ICTの先端ユーザの地位を保つ。センタは新技術の商業化にとって、ICT才能の経済的と社会的なリターンを確保する。
センタは優れた現地研究者の養成と海外の世界級の研究者を引き付けることに適する研究環境を持ち、世界的な重要な研究機構となる。以下のことをサポートする。
センタのスタッフは研究開発を従事すると同時に、新ICT製品を商品化する。政府は5年間に、1億2,950万ドルを追加拠出する。通信・情報技術省は6,700万ドルを拠出する。オーストラリア研究諮問委員会(Australian
Research Council)が6,250万ドルを出資する。企業の寄付は約25%に達し、5年間でセンタへの総投資は1億6,000万ドル以上となる。
プロセスの実行は専門家パネル(企業、研究共同体、オーストラリア研究諮問委員会の代表を含む)の選出と指名が含まれている。専門家パネルの主の任務は、ガイドラインとセンタの目標成果を明確にすること、センタの設立に関する提案についてアドバイスすることである。センタの管理者は通信・情報技術大臣と文部大臣が専門家パネルのアドバイスを参考にして指名される。
ITOLプログラムは企業間、特に中小企業間の電子商取引の促進を目標とし、新オンライン取引がビジネスの競争力を向上することを明らかにしていく。ITOLは競争的な助成金プログラムであり、B
to Bオンライン取引の便宜を、重要産業部門に提供する。プロジェクトの事業推進組織は、通常、製造業、流通業と大学の共同体である。ITOLの第1回目の投資ラウンドにおいて、50以上のプロジェクトに融資した。これらのプロジェクトは工業部門、保健と製薬、建設、自動車産業など多様な業界に及んでいる。
イノベーションアクセスプログラム(Innovation Access Program)の一部としてのITOLへの投資は2005年6月の会計年度まで延長し、1300万ドルを追加拠出する。助成金提供の最初の3ラウンドにおいて、約100万ドルを配分した。4ラウンドには170万ドル以内で、5ラウンドには141万ドルを拠出する予定である。
ITOLはNOIE(National Office for the Information Economy)が運営する助成金プログラムである。プロジェクトが少なくとも三つのメンバー(企業、商業・工業連合と研究機構)の協力であることはITOLが成功する鍵である。ITOLの助成金は常に産業グループを集めて産業の共通の問題を解決する。助成金の幅は3,500ドルから14.5万ドルまでの間であり、平均は8.5万ドルである。プログラムからの資金援助請求は拡大しており、各ラウンドの提供する金額を超えている。ITOLの成功事例は多く、製薬電子商取引プロジェクト(Pharmaceutical
Electronic Commerce and Communication )はそのひとつである。このプロジェクトは医薬品の製造業と流通業に電子商取引の導入を促進した。
Smart Movesは、国家革新意識啓発戦略(National Innovation Awareness Strategy)の一部として、オーストラリア地域の科学技術革新への意識を喚起する。全国民に科学、技術が将来の基礎であることと、革新が競争力の向上、雇用の拡大、社会の幸福の鍵であることを発信する。プログラムには、以下の要素が含まれている。
4年間でSmartMovesプログラムを各州の地域中学校の生徒、地域社会まで発展させる。居場所に関わらずウェブ上の情報資源にアクセスできる。連邦政府の新アクションプラン(Backing Australia’s Ability)は、SmartMovesのために4年間で370万ドルの拠出を予定している。SmartMovesの予算総額は690万ドルであり、民間部門からも同時に320万ドルの資金を集める。