イントロダクション

米国先端技術プログラム(ATP)

本調査の目的は以下四つの問題意識に対して明確な回答を模索することにある。

  1. 民間がATPの経費総額に占める一定の比率を負担するというATPの経費分担ポリシーのもとで、何が経費として計上され、何が計上されないのか。また官民の内訳にはどのような意味があるのか。
  2. ATPプロジェクトから生まれた知的財産権の扱いはどうなるのか。
  3. ATPの助成対象となったプロジェクトの成果が助成を受けた企業に利益をもたらした場合、この利益を国庫へ還元する制度はあるのか。
  4. ATPプロジェクトは何をもって終了されるのか。プロジェクトが順調に進まず、何の成果も生まない場合、どのようにこれを終了させるのか。

本報告書は上記四つの問題に沿って構成されている。

本調査の当初の目的は3つの事例を取り上げ、これを詳しく分析しつつ、上記の問題に回答を見出すことであった。しかしながら、調査を進める過程で、少ない事例を深く掘り下げるよりも多くの事例を大局的に網羅するほうがより効果的であるとの判断に至った。結果として、本報告書では全体にわたって多くの事例が紹介されることとなった。

第1章 概要

ATP Mission and Focus ・・・・・・・・・

先端技術プログラム(ATP)の狙いは、民間主導のパートナーシップを通してハイリスクな技術開発を推進し、それによって米国経済の成長を刺激することにある。

 

Historical Overview of the ATP ・・・・・・・・・

1988年の創設以来、ATPはこれまでに9件の一般枠コンペと30件の特別枠コンペを実施し、1,010社の参加企業とともに431件のプロジェクトを助成してきた。

現在までに計上されたATP予算の総額は15億4,400万ドルにのぼる。

※1995年の予算取り消しは災害復興資金(ロス地震を含む)に充てるために行われたもの。

 

Technological Focus ・・・・・・・・・

ATPは先端技術の開発を目的として民間と共同でハイリスクな研究開発事業に資金を提供するが、製品開発には参加しない。

Industry Participation ・・・・・・・・・

ATPプロジェクトは単一企業によるものと、大企業、中小企業、大学、政府の研究機関などから成るジョイントベンチャーによるものとに大別される。

ATP Funding Mechanisms ・・・・・・・・・

ATPの先端技術プロジェクト431件に対する助成金27億8,300万ドルのうち、民間財源からの拠出が50パーセントを超える。

※13億8,600万ドルはATPが民間に提供した金額である。議会が計上したATP予算$1.544Bのうち、残り$158Mは運営経費等、その他の経費(SBIRへの税金を含む)に充てられた。

IP from ATP Projects ・・・・・・・・・

ATPプロジェクトから発生した知的財産権はすべてプロジェクトに関わった営利企業の所有に帰する。

Profits from ATP Projects ・・・・・・・・・

ATPは製品開発や商品化の段階には関与せず、すべての利益は民間に帰属するものとしている。

ATP Project Goals and Parameters ・・・・・・・・・

ATPプロジェクトの提案書は達成すべき目標を明確に示さなければならない。

ATP Impact ・・・・・・・・・

ATPはハイリスクなR&Dの促進、R&Dの規模拡大、市場化の早期達成に大きく貢献しているようである。

 

第2章 助成のメカニズム

ATP / Industry Cost Sharing ・・・・・・・・・

ATPがこれまでに助成してきたプロジェクトのうち、単一企業プロジェクトの補助率は58パーセント、ジョイントベンチャーの補助率は47パーセントで、総合すると経費全体に占めるATPの助成額は50パーセントを上回る。

ATP Funding Guideline ・・・・・・・・・

助成のガイドラインは応募者の性質ごとに明確な条件を定めている。

間接経費を正しく確定することが適切な企業負担を確保する秘訣である。

Direct vs Indirect Costs ・・・・・・・・・

ATPによる直接経費と間接経費の定義は一般に公正妥当と認められる会計原則(Generally Accepted Accounting Principles、GAAP)に準拠している。

直接経費は当該プロジェクトの活動経費として直ちにそれと判別しうる経費、および政府の経費原則にしたがってATPが承認する経費をさす。

間接経費はATP関連の活動とは直ちに結びつかない一般的な目的、もしくは共通の目的に対して支出される経費をさす。間接経費の比率は協議のうえ決定されるか、もしくはATPが助成交付の裁定から90日以内に承認する。

※ 間接経費の比率が過剰なほど高く設定されている(よって企業側の負担が人為的に膨張させられている)場合、この比率が下げられ、よってプロジェクトの予算総額も下がる。またこのために企業側の負担が許容される最低限度を下回れば(大企業もしくはJVの場合)、ATPの拠出額が下げられる。ただし、現実的にはこの状況は非常に稀である。

Indirect Cost Calculation ・・・・・・・・・

間接経費の確定は“科学的というより芸術的な”プロセスによる。このため直接経費に対する間接経費の割合はプロジェクトによってしばしば大きく上下(25%_400%)する。

間接経費の確定プロセスには基準らしい基準が存在しない。確定のプロセスに働く要因は以下の通りである。

Cost Sharing Guidelines ・・・・・・・・・

ATPはATPプロジェクトに対する企業側の負担分について、充当可能な資金源を明確に定めている。

企業のコストシェアに充当しうる資金

企業のコストシェアに充当しえない資金

Unallowable Costs ・・・・・・・・・

Federal Acquisition Regulation(FAR)もしくは行政管理予算局(OMB)の経費原則のもとでは通常認められる経費であっても、ATPプロジェクトにおいては許容されない経費のタイプが存在する。

Funding Case Studies ・・・・・・・・・・・・・・

ATP助成の期間と金額はプロジェクトのタイプと規模によって大きく変動する。

プロジェクト

タイプ

期間 (年)

助成金総額

ATPの補助率
Affymetrix, Inc.
DNA Diagnostics

JV

5.0

$62.97M

49.9%
Kopin Corp.
Display Technology

JV

3.2

$12.44M

49.0%
Al Ware
Artificial Intelligence Software

JV

4.7

$7.62M

49.7%
Texas Instruments
Integrated Cicuitry Insulation

Single

3.0

$5.56M

35.5%
Third Wave Technologies, Inc.
DNA Diagnostics

Single

2.0

$2.77M

72.2%
Nonvolatile Electronics, Inc.
Magnetoresistive Computer Memory

Single

3.0

$2.61M

66.7%

 

第3章 ATPプロジェクトから生まれるIP

Commercial Ownership of all IP ・・・・・・・・・・・・・・

ATPは開発事業から商用化への見込みが最も高い組織、すなわち民間の営利企業に知的財産権(IP)を委ねることを意図している。

Government Rights ・・・・・・・・・・・・・・

IPの所有権が民間の参加者に帰属する一方、ATPはATP cooperative agreementによってIPに対する権利を保護措置的に留保している。

IP Strategies ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

知的財産権をめぐる諸戦略

知的財産権の扱いをめぐってATPの助成金受給者が実施する主たる戦略には、特許権取得、著作権保護、企業秘密としての維持がある。

IP in Joint Ventures ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ジョイントベンチャーでのIPの扱い

ジョイントベンチャーの参加企業がIPの扱いに関して協議するとき、ATPはこの交渉に関与しない。またIPをめぐる取り決めはジョイントベンチャーの性質によって大きく異なる。

IP Procedures ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ATPは特許権と著作権の処遇および報告について明確な手続きを定めている。

 

IP Case Studies ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ATPプロジェクトから発生したIPの権利保有者は、このIPを社内の製品開発に応用することもできるし、第三者へのライセンシングによって一回限りもしくは継続的な収入を得ることも可能である。

プロジェクト 事  例
Affymetrix, Inc.
DNA Diagnostics
  • 複数の特許権を取得
  • 研究成果をもとにいくつかの新製品、新システムを発売
  • 30件を超えるライセンス契約、およびJV事業(Beckman Coulter Inc.、Eos Biotechnology、Hewlett Packard、Incyte Pharmaceuticals、Merck、OncorMed、Parke-Davis Pharmaceutical Division等)を創出
Nonvolatile Electronics, Inc.
Magnetoresistive Computer Memory
  • Honeywell, Inc.とのライセンス契約
  • Motorola, Inc.とのJVで開発技術を商用化
  • スピンオフのアプリケーション製品を発売
Texas Instruments
Integrated Cicuitry Insulation
  • 20余りの特許権を取得
  • 10件の技術論文を出版
  • 加工技術を絶縁体メーカー等にライセンシング
Third Wave Technologies, Inc.
DNA Diagnostics
  • 20余りの特許権を取得。今後5年にわたって、さらに多数の特許権を取得する予定。
  • 当該技術に基づいて3件の新製品を発売
  • 大手製薬会社数社とライセンス契約を交渉

第4章 ATPプロジェクトから生まれる利益

Private Sector Profits ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ATPプロジェクトの成功がもたらす利益は、すべてこれを創出した企業の所有に帰する。

※ 法人課税には給与支払税が含まれる。ちなみに1994年のATPプロジェクト開始当初、Third Wave Technologiesの従業員は6名だったが、1996年の終了時には72名に増えていた(現在は92名)。

Avenue

ATPプロジェクトの参加者とそのパートナーらは、民間セクター内で、さまざまな戦略をもってATPプロジェクトの成果を利益につなげている。

参加企業はATP関連の技術開発が、パフォーマンスの改善、コスト削減、市場化に至る期間

営利化の戦略

Source: ATP Business Progress Reports from 207 projects funded 1993-1995

 

Primary Commercialization Strategies ・・・・・・・・・

いくつかの戦略を

Deployment of Technologies ・・・・・・・・・

1993年から1995年の間に助成を受けたATPプロジェクトの参加企業を調べたところ、いずれもATP関連のテクノロジーからすでに収入を得ているか、もしくはその方向に向かって順調に進んでいた。

Source: ATP Business Progress Reports from 207 projects funded 1993-1995

Paths to Commercialization ・・・・・・・・・

ATPの助成は企業が取り組む“科学的に実証可能な”テクノロジーからプロトタイプへの移行を支援するもので、この段階に到達して以降は市場の原理に則って商用化が進む。

研究成果を商用化に至らしめる典型的なアプローチ

 

Commercialization / Profit Case Studies ・・・・・・・・・

ATPの助成金受給者はATPの助成対象活動を梃子に新製品の商品化に漕ぎつけ、追加的な財源確保や提携によって事業目的の達成を目指している。

プロジェクト 商品化・営利活動の事例
Affymetrix, Inc.
1994-99
DNA Diagnostics
  • 最初の製品(GeneChipョ Systems)を1996年半ばに商品化、1997年には$4.8Mの利益を出している
  • NIH及びその他の政府・企業パートナーから後続財源を確保
  • 1996年6月に株式公開、$92Mを調達。
  • 1997年から1998年、GeneChipョ の販売増進に伴って製品収益が$22.8Mにアップ(377%増)
Al Ware
1994-99
Artifical Intelligence Software
  • 人口知能技術Process Advisorを商品化
  • 1997年、Computer Associates Int’lによって買収
Kopin Corp.
1994-98
Display Technology
  • Motorolaと提携、CyberDisplay凾ベースに新製品を開発、製造、販売(新規の製品カテゴリーの創出を含む)
  • Siemens、Wireless、Gemplus、FujiFilm Microdevicesら、Motorola以外のOEMパートナーとも契約
  • 1997年から1998年にかけて製品収益が77%増($13.1Mから$23.2Mへ)。10万台を超すCyberDisplay凾フ出荷もこの増収に貢献した
  • Industry Weekの1998 “25 Technologies of the Year“を受賞
Nonvolatile Electronics, Inc.
Magnetoresistive Computer Memory
  • MRAMチップの商品化を目的としてMotoralaと提携、1999年内の商品化を目指している
  • Motorolaの資本参加(12%)
  • 二次製品GMRセンサーを商品化、収入$500,000以上
Texas Instruments
Integrated Cicuitry Insulation
  • 素材開発のためにNanoPore, Inc.と提携
  • 1998年、Allied Signal, Inc.がNanoPoreのスピンオフを買収、Nanoglass(素材)の販売活動にあたる
  • Nanoglassの顧客(半導体メーカー、統合回線メーカー等)に対して加工技術のライセンシングを検討
Third Wave Technologies, Inc.
DNA Diagnostics
  • 1996年半ばに最初の製品キットを商品化、1996年末までに$300,000の収益達成
  • NIH及びDOEから後続財源を確保
  • 1998年半ばまでに3つの新製品を発売、収入の見積は5年以内に$100M以上
  • 大手製薬会社及び農芸会社と技術の販売/ライセンシングを交渉中

 

第5章 プロジェクトの達成目標とパラメータ

Proposal Process ・・・・・・・・・

ATPプロジェクトのパラメータは企画書提出の段階で明確に定められ、プロジェクトの目標、期間、予算等も具体的に示される。

Proposal Review and Selection ・・・・・・・・・

企画書の選抜プロセスは予選、科学・技術・実務分野の専門家によるピアレヴュー、口頭審査、最終格付から成る。

Project Oversight ・・・・・・・・・

ATPはプロジェクトの進捗状況をモニターするため、特定の監視活動と監査を義務づけている。

Project Payment ・・・・・・・・・

ATPの助成金は分割で支払われ、企業側もATPの支払に合わせて相応のコストシェアを拠出する。この仕組みにより、ATPは速やかな撤退の道を確保している。

※1 政府は必要に応じて空費分の助成金を裁判で回収することもできるため、実際には政府が“ロスを出す”状況は考えにくい。

※2 2年未満のプロジェクトはプロジェクトの終了時、2_4年のプロジェクトは初年度の終わりとプロジェクトの終了時、5年のプロジェクトは1年目、3年目、5年目の終わりに監査を行う。

Project Management ・・・・・・・・・

当初の計画に些少の修正が加えられることは間々あるが(ATPの承認を必要とする)、助成金受給者が大幅な軌道修正を行うことは稀である。

Sample Progress Data ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ATPプロジェクトの最初の50件について、支援開始から4〜6年後の進捗状況を評価したところ、著しい成果が示された。