Langphilia! / Alan Cooper, 2005年4月26日初出

アラン・クーパー

古本屋で見つけて、山形浩生の名前で買った。 著者のアラン・クーパーは悪名高きVisual Basicの開発者で、 マイクロソフトを辞めてクーパー・インタラクション・デザインという 会社を立ち上げたらしい。 序文を寄せているポール・サッフォーの肩書きも 未来研究所(Institute for the Future)所長と微妙に怪しげ。 訳者後書きを見ると山形浩生もこの本どうなのよってわりと冷めた見方らしい。

賛成できる点もある。 特に銀行のATMの話。 引き出し金額を入れる時に、残高も引き出し限度額も手数料も表示してくれないし、 間違えた時に間違えた理由も間違えた金額の程度も教えてくれないで 最初の最初からやり直させる。 残高表示の時に暗証番号を入れさせて、 その直後の引き出しの時にまたもや暗証番号を入れさせる。 たとえ無事に引き出せた場合でも、 現金と通帳とキャッシュカードを全部同時に吐き出しておいて、 現金を先に取ると「カードをお忘れなく」とピーピー言うし、 カードを先に取ると「現金をお忘れなく」とかピーピーうるさい。 ほんと銀行のATMの操作性は何であんなに最悪なんだろう。

階層型ファイルシステムが問題という話は全く賛成できない。 システム管理者がジェーンのアカウントを使って 深い階層にあるreadme.docをワードで読んだために ジェーンがマイドキュメントフォルダを見失ってしまったという例は ファイルシステムの問題ではなくて、 アカウントの使い分けの問題だろ。

ソフトに学習能力がないという話は、 原著が書かれたのがWindows 95の時代らしく、 Windows 2000では解消されているものが多い。 使われないメニューを隠すとか。

ソフトは責任をとらないという話で、なんでもかんでも「〜していいですか?」と 確認ダイアログを出すというのは今でも良くあるね。 最近フリーメールみたいのに登録したら、あまり開発にお金をかけられない そっち系の方がこういう程度の低いソフトが多い。 ログアウトボタンを押したら「本当にログアウトしますか?」とか聞いてくるの。 アホか。 間違えてログアウトボタンを押したら再ログインすればいいだろうが。 そんなことまで確認されなきゃいけないほどもうろくしてるのか俺は。

銀行ATMに対する以下のくだりは全面的に賛成。

プログラムは「預金引き出し」ということばを画面のてっぺんに置いておいて、 操作の間ずっと、それをそこに残しておくべきなのだ。それと、「手数料$1.50」 というのも表示して、それを消すな。それから、「当座預金」ということばと、 口座番号、残高、引き出し限度額をそれに追加して、これまた消さないでおくこと。
そうすれば、いくら引き出すかを決めるときにも、わたしは尋問を受ける混乱した 犠牲者ではなく、完全にもののわかった消費者としてふるまえる。引き出し金額という 重要な決定を、何が合法で、何が可能で、何が用意されていて、何が適切かというのが わかった上で決断できるわけだ。

こんな風に文系っぽくコンピュータの嫌なところをあげつらっていって、 じゃあ良い操作(インタラクション)デザインってどんなものかという例も それなりにかっこいい例が載っているのだけど、 操作デザイナーがどうやってそのデザインを生み出すのか、 どうすれば良い操作デザインができるのか、という点には全く言及されない。 せいぜい開発プロセスの最初にデザインしろというだけ。 設計なしでコーディングを始めるのは論外という主張は、 アジャイル開発とある意味正反対かもしれない。

序文にある通り、これはデザインのハウツー本の代わりに デザインのビジネス的な意義を書こうとした本で、 日本での出版も翔泳社だし、訳者も山形浩生だし、装丁もタイトルも いかにも文系っぽいし、ちゃんと原著と同じような焦点は当たっている。