博士への道なき道

(早稲田大学大学院理工学研究科 情報科学専攻 課程博士 2002/03 学位取得の場合)

どうすれば博士になれるのか、詳しく知るひとはそう多くありません。 たとえ教授であっても、これまでに博士課程の学生をあまり持ったことがなければ、 事務手続きについてはあまりよくわかっていない可能性大です。 どんなに頑張って、良い研究をして、論文を書いて、学会発表をして、 ジャーナルに投稿して、査読をパスしていても、事務手続きを少しでもミスれば、 絶対に博士号は取れません。ああ、恐ろしい。

では、博士号取得にはどのような手続きが必要なのでしょうか。 これが実は、どこを調べてもサッパリわかりません。謎です。 でも本当をいうと、文書のようなものが一応あります。 教学支援システム から教員IDを使って入手できる(私の頃はできた)3枚の書類:

  1. 博士論文合否判定 最短日程一覧
  2. 博士学位 申請関係書類等 締切日
  3. 博士学位請求論文受付け合否判定までの取り扱い
と事務所で(たぶん)もらえる
  1. 博士学位申請に関する事務的注意事項
に、謎の事務手続きの全貌が描かれている…はず…なんだけど…… まったくわからねぇ〜! ボクは、いつなにをどこに出せばいいか知りたいだけなのに、 こんなにたくさん書類があって、なぜそれがわからないんだ!! なんの手がかりもなくこれらの書類を解読できたひとは、 たぶん考古学かなにかの天才なので、有名になる前にサインください。

博士後期課程は、学費を取ってる正規の課程のはずなのに、 なんで取得基準や手続きの詳細が明文化されていないんでしょう? そこにはなにかこう、俗人には計りしれない深遠な事情があるに違いないので、 我々世俗の人間は、情報を共有することで博士号取得の謎に迫ろうと、 まあそういうわけなのでした。 ただし、ここに書く情報はあくまで私個人の場合の一例なので、 締切や提出書類等については各人でよく確認して、間違いのないようにしてください。 以下の情報は単なる参考にすぎません。

博士号取得に関して、もっと格調の高い情報を欲している方は 首藤さんの体験談 をどうぞ。 当ページの情報は、細かいことはどうでもいいから 期限と提出物だけを手っ取り早く知りたいというマニュアル世代の人々に向けて 発信されています。


私のときのスケジュール

日付/期限イベント提出物提出先
2001.10.11 ↓の1週間前 (1)の草稿 先生(本当は学科の事務所かも)
10.18 提案判定会議 (1)の改訂版, (2), (3)の草稿 先生
11.8 予備公聴会(副査決定) (1)の最終版先生と学部事務所(1部ずつ)
(2), (3)先生
2002.1.17-21 ↓の3〜7日前 (3)のソフトバインド x 人数分 主査(先生)、副査全員
1.24 公聴会 同上(回覧用 x1) 会場に持参
2.7 審査分科会 (3)の簡易製本版 先生
2.21 ↓の1週間前 (4) 先生→学部/学科
2.28 ↓の1週間前 (3)のハードカバー製本 x2
(3)のマイクロフィッシュ x1
(5)
学部(大学院)事務所
3.7 工研委員会(合否判定) なし!

提出物一覧

(1) 博士論文概要
次の4つの部分で構成されます。
  1. 表紙
  2. 研究の背景や目的、成果、論文の構成等を書いた、 いわゆるイントロ(3ページ)。
  3. 履歴書
  4. 業績リスト
学部事務所に書類一式の入った封筒があるので、取りに行きましょう。 MS-Word 用のものでよければ、教員用 Web ページにも置いてあるので、 先生に催促しましょう。助手なら自分で入手できます。 レイアウトを似せて作れば、TeX で作っても平気です。
(2) (主要)論文別刷
査読つきのものを全部用意しておけば安心です。
(3) 博士論文本体
一番重要です。(課程の場合)おおよそ次の4つの版が存在します。
  1. ソフトバインド: 印刷してバインダーで綴じただけです。 いつでも好きなときに差し替えられます。
  2. 簡易製本: 生協で分量に見合った製本カバーを買って、 コピー機の近くに置いてある機械で2分くらいはさんでおくと できあがります。なかなかの出来栄えで、とっても簡単。
  3. ハードカバー製本: 業者に頼んで作る黒地に金文字の立派な本です。 もう直したくても直せません。ページ数にもよりますが、 製本代は1冊 10,000 円くらいでしょうか。 これと学位授与式で身につける学帽、マントは大学の権威の象徴です。
  4. マイクロフィッシュ: スライド用のちっちゃなフィルムです。 製本業者がハードバインドと一緒に作ってくれます。 どう考えても今の時代には必要ないですが、 国会図書館に納めるのに必要みたいです。
フォーマットは特に決まってませんが、表紙には次の3つの情報: (i) タイトル, (ii) 日付, (iii) 名前 を含める必要があります。 (i), (iii)は日本語と英語の両方が必要で、 本文が日本語/英語の場合、日本語/英語を先に書きます。 (ii)は工研委員会の日付を本文の言語で書きます。 本文が英語の場合の例(pdf)。 製本で金文字にするときに、行あたりいくらで料金がかかるので、 必要以上にたくさん文字を書いちゃうと大変です。 日本の博士論文を見ると、本文は行間がスカスカな上に、 分量も100ページ超くらいのものが多いですが、 海外だと小さな字で200〜300ページも書いてあるのがざらです。 日本と海外の博士の扱いの差はこういうところから来てるのかもしれないなぁ、 と思うのでした。
(4) 審査報告書(、判定結果)
本来は主査の先生が書きますが、先生が忙しかったり日本にいなかったりすると、 書かされる場合もあるようです。(1)の客観版のような内容です。 用紙はさすがに先生にもらわないと手に入りません。 分量は3〜4ページです。
(5) 彙報用原稿(和文・英文)
用紙は書類一式の中に入ってます。 (1)のイントロ部分のような内容で、和文と英文で1ページずつ書きます。 事務所に行くと昨年度の冊子がもらえるので、参考になるでしょう。


主要イベントについて

提案判定会議
申請者が論文をまとめ上げるのに成功したあかつきには、 博士号を与えてもよいかどうか、先生方が判定します。 提案するのは、申請者というよりも指導教員の先生です。 教室会議という名の学科の教授会で、 指導教授がほかの先生方に対して論文の価値を説明するという形式をとるため、 中途半端な提案をすると、指導教授が迷惑をこうむります。 慎重に提案しましょう。提案に必要な業績は、 学術雑誌と査読つきの国際学会合わせて最低2本らしいです。 私は先生から、3本あれば文句はないと言われました。 2本だと、きっとしぶしぶです。 この時点では業績が不足していても、 投稿中であれば提案してもらえるようです。 3月に学生たちと一緒に卒業するための最終期限は、多分11月上旬です。 3/7 の最終合否判定にかかるためには、 その3ヶ月前の12月上旬に論文が(形式上)受理されなければなりません。 その2週間前には予備公聴会をパスして、 論文概要を提出しなければならないので、 提案判定会議は少なくともその1〜2週間前の11月上旬となります。 この辺の日程は教授会の都合に依存するので、要確認です。 ちなみに、私の頃は教授会は木曜にありました。
予備公聴会
公聴会が論文受理後の全学レベルの審査会であるのに対して、 予備公聴会は学科による予備的な審査会です。 本番の公聴会は日程が公表され、 一応だれでも聴講できることになっている(らしい)のですが、 関係者以外が聴きに来ることはまずないため、 予備公聴会と公聴会は実質的にほとんど同じです。 予備公聴会に通れば公聴会で落ちることはまずないと言われていますが、 真偽のほどは定かでありません。 これを無事通過すると、論文概要を事務所に提出することで、 やっと正式に学位の申請ができます。 審査員報告書も必要ですが、これは先生が多分出してくれます。 課程博士の場合、主査は自動的に指導教授になりますが、 副査の先生はここで決まります。
公聴会
予備公聴会で話した内容をもう1度発表するという、話す方はつらくて、 聞く方は非常に退屈なイベントです。 一応、予備公聴会で指摘された点については 改善しておかないと怒られると思います。 私の場合、予備公聴会のときの完成度がまだまだだったので、 公聴会では最新の研究成果を紹介することができて、 聞いてる方も少しは面白かったに違いありません。 ギリギリな人生にも、ときには良いことが。
審査分科会
公聴会でのコメントを受けて、論文の(ほぼ)完成版を提出します。 それに対して、学科レベルでの合否が決定します。 これが事実上の合否判定で、審査分科会にパスしたものが 工研委員会で否決されることはまずありません。これにパスしたら、 製本した論文を工研委員会の1週間前までに事務所に提出します。 ここだけの話、この時点でも相変わらず私は論文を書き続けてました。 だって短い論文なのに、全然書き終わらないんだもの。 これでだいぶ体を壊して、しばらく回復できませんでした。 製本業者やそのときの混み具合にもよると思いますが、 製本には普通、7〜10日かかります。 大部分の学生は理工社を利用すると思いますが、 理工社が早稲田大学の事情に一番詳しいので、 言い伝えどおりに理工社を利用するのが最善の選択です。 前もって出向き、細かいことを確認しておいた方が良いでしょう。 私は結局間に合わなくて、無理をいって5日で製本してもらいました。 マイクロフィッシュも一緒に作ってくれます。 もう理工社の方角には足を向けて寝られません。
合否判定(工研委員会)
論文を製本に出してもまだ安心してはいけません。 製本ができあがってくる間に、彙報用原稿を書きます。 彙報は、その年の大学における博士論文の概要をまとめたもので、 広く他大学や企業の研究機関等に配られます。 ボロボロになった体で書くのは結構しんどいです。 提出物さえ出せば、工研委員会は優しいので、 なにもいわずに合格させてくれます。
学位授与式(卒業式)
合格すると呼ばれるので、行きます。 学帽とマントを貸してくれるので、それを着ます。 着てると、その日はちょっとだけ人気が出て、 しらないひとに写真を撮られたりします。 事前にサイズ合わせやリハーサルもあるので、 暇だったらそれにも行きます。 製本した論文は、主査と副査の先生方に配るのが普通ですが、 お歳が上の先生ほど学外の仕事が多くて捕まりません。 ですが、このときだけはどんなに偉い先生でも学内にいることが多いので、 このチャンスに一気に配ります。 菓子折りなどを一緒に持っていくと、研究室の学生さんに喜ばれます。 したがって、製本論文は主査と副査の人数分プラス2冊 (学校に納める分)必要ですが、 副査の先生方にはソフトカバーの製本を配るひとも多いようです。 ソフトカバーの製本は、お国(科研費)の報告書等によくあるやつで、 これも頼めば業者の方で作ってくれます。値段はよく知りません。


謝辞

このページは、同期の会田氏の依頼と励ましによって作成されました。